ワインのある景色―6月 (26)
- 2026.06.01
- ワインのある景色
ジョージアのワイン
ワインと聞いて多くの人がまず思い浮かべるのは、フランスやイタリアといったヨーロッパの国々ではないでしょうか?ワインの歴史は非常に古く、その起源は約8000年前にも遡る紀元前6000~5000年頃といわれていますが、その発祥の地はフランスでもイタリアでもありません。黒海とカスピ海に挟まれたコーカサス地方の小国、ジョージア(旧グルジア)がその地とされています。ここで出土した陶器の中からブドウの果皮に含まれる酒石酸の痕跡が見つかっていて、太古の昔に野生のブドウを自然の力で発酵させる技術が存在していたことを証明しているのです。
興味深いのは、ジョージアでは今なお当時に近い製法でワインを造っているワイナリーがあるということ。「クヴェヴリ(Qvevri)」と呼ばれる大きな素焼きの壺を使った醸造方法です。地中に埋めたクヴェヴリに粉砕したブドウの果皮・種・果汁を入れて、地上の温度変化の影響を抑えて自然に発酵と熟成させることで独特の風味を引き出しています。ステンレスタンクや最新技術によって精密にコントロールされている現代のワイン造りに対し、クヴェヴリでの醸造は全て自然任せ。今流行りのナチュラルワインの原点で,2013年にユネスコの無形文化遺産に登録されています。
こうした背景から近年、ジョージアのワインは自然派ワインを愛する人々から注目を集めていますが、なかでも熱い視線を送られているのはアンバーワインといわれる、いわゆる「オレンジワイン」です。白ブドウを赤ワインのように果皮ごと発酵させたオレンジ色を帯びたワインですが、ジョージアでは果皮を長期間漬け込むため、琥珀色(アンバー)に近い色に仕上がるためこの名で呼ばれており、タンニンがしっかりと感じられ、複雑でスパイシー、時に土のような風味を感じるこのワインは現地の郷土料理との相性はもちろんのこと、意外にも和食にも相性の良い料理が多く、なかなか万能な味わいをしています。
ジョージアの郷土料理
先日、そんなジョージアを旅してきた料理家の友人に郷土料理の作り方を教えてもらいました。ワイン同様、伝統的に受け継がれてきた郷土料理は地方によって多少異なるものの発酵食品やハーブを巧みに使ったものが多く、ジョージアの国民食「ヒンカリ(大きな小籠包のようなもの)」、「パドリジャーニ・リグヴジット(ナスのくるみペースト巻き)」、「ロビオ(赤インゲン豆の煮込み)」や「ハルチョー(牛肉のスパイススープ)」など、異国の料理ながらどこか懐かしい、どこかで出会ったことがあるような味わいで,そのどれもがクヴェヴリワインの素朴で深い味わいと見事に調和しました。そういえば、大手牛丼チェーンでも鶏肉をニンニクたっぷりのホワイトソースで煮込んだ「シュクメルリ」がシーズンメニューとして提供されていたとか。日本人の味覚にも合う料理が多いのは、今回実際に料理をしてみて感じたことの一つです。
以前、こちらのコラムで触れたモルドバ国と同じように、ジョージアも自家製ワインの醸造が法律で認められていて、そこで暮らす人々の日々の食卓には欠かせないものとなっています。古代の人々がブドウから自然に生まれる発酵の奇跡に気づき、それを壺に託して8000年にわたって受け継いできたこの土地。その味わいを現代に伝えるクヴェヴリワインはまさに文化遺産で、ジョージアという国のアイデンティティといっても過言ではないでしょう。ワインの一杯に歴史、風土、そして人々の情熱が詰まっている、そんなことをあらためて感じさせてくれるジョージアのワインでした。
2023年5月から、「定期ワインコース」のお客様にお届けする冊子「エフスク」にコラムを連載しています。「ワインが好きだな。ワインのことを知りたいな。産地に行ってみたいな。ワインが飲みたーい!」と、皆様に思って頂けるようなワインのある景色をお届けできればと思っています。引続きどうぞよろしくお願い致します。
ライター紹介:新井田 由佳(Yuka Niida)

・J.S.A.認定 ソムリエ
・La Confrerie des Hospitaliers de Pomerol ボルドー ポムロル騎士団称号
大手総合商社在職中にワインに魅了され、退職して渡仏。ブルゴーニュを中心にフランス、イタリアの数多くの生産者を訪問し見聞を広める。知れば知るほど魅了されるワインの世界について、もっと知りたい!が現在進行形で継続中。
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