ワインボキャブラ天国【第155回】「棚仕立て」 英: pergola 仏: pergola
- 2022.12.25
- ワインボキャブラ天国
連載企画『Firadis ワインボキャブラ天国』は、ワインを表現する言葉をアルファベットのaから順にひとつずつピックアップし、その表現を使用するワインの例などをご紹介していくコーナー。
このコラムを読み続けていれば、あなたのワイン表現は一歩一歩豊かになっていく・・・はずです!
取り上げる語彙の順番はフランス語表記でのアルファベット順、ひとつの言葉を日本語、英語、フランス語で紹介し、簡単に読み方もカタカナで付けておきますね。
英仏語まで必要ないよー、という方も、いつかワイン産地・生産者を訪れた時に役に立つかもしれませんから参考までに!!
ということで今回ご紹介する言葉は・・・
「棚仕立て」
英: pergola
仏: pergola(女性名詞 発音は「ぺルゴラ」)
日本ではブドウ狩りでもお馴染みの「棚仕立て」
ブドウ栽培の「仕立て法」、3つ目は皆さんも日本のあちこちで目にしたことがあるはずの「棚作り(たなづくり)」です。
例えばブドウの名産地である山梨県、長野県、岡山県などでは、生食用のブドウがこのスタイルで栽培されています。ブドウ狩りに行ったことのある方は、この棚の下に入ってブドウの房を狩り獲った経験があると思います。
ワイン関連の情報サイトなどでヨーロッパのブドウ畑の写真を見ると、これまでにご紹介してきたような垣根のような仕立てやブドウの樹を株のままそのまま育てているような方式が主流ではありますが、一部の地域では日本と同様にこの栽培法が採用されています。例えばスペインやポルトガル、イタリアの一部など、ヨーロッパ南部の地域。ちなみに上の画像はスペイン北西部の「リアス・バイシャス」地方の生産者『ジャスト・ビー』から戴いた画像です。収穫が終わってブドウ棚の前にファミリー集合でパチリ…いい写真ですね。
では、どうしてそんな偏った地域でだけこの仕立て法が採用されているのでしょう?
この仕立て法のメリット、デメリットについて整理していきたいと思います。
「棚仕立て」のメリット、デメリット
最初のメリットは、上の画像見ればすぐ想像がつくはず。基本的には目線の少し上の高さにブドウが育つため、生育状態が視認しやすく、かつ収穫の際にもかがむ、しゃがむなど必要無く作業が出来ます。生食用の高級ブドウなどは房の外観も重要ですので、栽培段階で実りの良い果実を判別しやすくなるのも利点ですね。皆さんがブドウ狩りを楽しんだ時も、おいしそうに大きく実ったブドウが遠くからでもすぐに見つけられたはず!
ですが、「棚仕立て」を採用している産地の生産者がこれを選んでいるのは、どちらかというと気候要因に対するメリットが重視されているためです。欧州では「日照が強い」こと、そして日本では「湿度が高く、雨が多い」というのがその要因として挙げられます。
まずは日照の強さ。生育段階では、その豊かな日照をブドウの葉全体が受けられるよう平面的に広げて成長させることで、光合成を促進することが可能となります。また、果実が実った後の段階になると、今度は直射日光を浴びて果粒が破裂してしまうなどを防ぎ、果実を穏やかな日陰に置いて完熟までゆっくり育成できるというメリットがあります。先程の『リアス・バイシャス』などは、大西洋の海に面した産地で非常に暑い地域ですので、伝統的にこの栽培法が使われています。
また、雨や湿度に関しても同様に、棚がブドウを守る役割を果たしています。強い雨は日照と同様にブドウにダメージを与えてしまいますし、日本のように湿気の強い地域では果実と地表が近いことでカビなどの病害にかかりやすくなります。これらを防ぐため、地面から出来るだけ離れた場所でブドウを守りながら育てることのできるこの仕立て法が採用されたという訳です。
一方でデメリットですが、これは最初に挙げた「視認しやすさ・作業時の姿勢」という点とは相反してしまうのですが、機械での作業が一切できないということ。収穫も手でひと房ひと房の刈り獲り・・・なかなかたいへんですよね。
ただ、ブドウの状態を収穫しながらきちんと見極め、良いブドウだけを選び取る姿勢のある生産者にはそんなことは厭わないもの。良いブドウを収穫するために、シンプルに最も適した栽培法を選んだ結果ですね。
それでは今回はこのへんで・・・今日も、あなたの表現するワイン世界が少し広がりました!
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