「テロワール」って何??最終回:「人」は、テロワールの一部なのか??
これまで5回に渡って、『テロワール』を構成する要素についてお話をしてきました。
土壌、地形とロケーション、日照時間、気温、そして雨・・・
『テロワール』という概念に付いてごくごく一般的で基本的なことだけに触れるつもりでも、
これだけのボリュームになってしまったことに改めて驚きを感じています。
大地と空の力。
それは、人間が決して変えることのできない、掌握してコントロールをすることのできないものです。
『テロワール』は、人智を超えてワインに奇跡を与えてくれる自然の巨大な力。
しかしその一方で、この巨大な力を生かすも殺すも「最後は人次第」というのは忘れてはならない現実です。
⑥「人の手」は、テロワールなのか?
ブルゴーニュの「畑名クラス」のワインを例に取ってみましょう。
ブドウ樹の列が整然と並ぶ畑の様子を、まずは思い浮かべて下さい。
そこは、素晴らしい土壌とロケーションを誇る偉大なテロワールに恵まれた、とても名高い畑です。
(このお話しでは、どの畑かは特に大切ではありません。生産者の実名も出しません 笑)
フランスの一部の地域では、相続制度によって一つの畑の区画の中でも列毎に所有者が違う、
ということがあります。
イメージとしては、例えば2人の子供を持つ生産者が一つの区画を持っていたとすると、
相続の際に丁度真ん中で分けて右側をお兄ちゃんに、左側を弟に、というような相続の仕方をします。
極端な話、100m四方の畑をもつ生産者に仮に10人子供がいたとして、
更に相続が縦に均等に分けていく方法を取ったら、1人ずつの相続分は10m幅の数列に分けられます。
たった100m四方の畑に10人もの生産者がいることになります。
次に・・・この10m幅を相続したうちのひとりが亡くなる時が来ます。
この人には、3人の子供がいました。
10mの幅の畑がまた3等分されたとすると、今度は3m少々の幅になってしまいます。
先程の10人の兄弟にそれぞれ3人ずつ子供がいたら、
なんと30人もの生産者がこの一区画を分け合って所有することになります。
・・・・こうやって、偉大なテロワールを持った畑が非常に多くの所有者に分割されていくと、
一体どうなるのでしょうか。
「おそ松さん」が流行っていますが・・・兄弟姉妹といっても、性格や考え方は本当に多様ですよね。
ワイン生産者の後継者の中にも、
親が持っていたワイン造りへの真摯な愛と情熱をそのまま受け継ぐ子供もいれば、
ワイン造りには全く興味のないビジネス志向の子供もいるはずです。
前者は偉大なテロワールに恵まれた10m幅の区画で
「親の代よりも更に良いワインを造ってやろう」と考えるでしょう。
親の代よりもさらに収穫量を減らしてブドウの凝縮度を高めたり、テロワールを更に突き詰めて研究し、
そのポテンシャルを生かすための努力をするでしょう。
だけど後者が極端な考え方をした場合、
「どうせ有名な畑だし、ワインなんか適当に作っても高く売れるだろう」と思うかもしれません。
高く売れるなら、生産量も増えた方が良い・・・じゃあ、許可されている最大値まで収穫量を増やして、
1本でも多く売って稼ごう・・・大丈夫、いい畑なんだからそこそこの品質のものは出来るよ・・・と。
偉大なテロワールのもとで造られた、この2人のワイン。
テロワールは同じだとしても、果たして同じように偉大なる素晴らしいワインになるのでしょうか・・・?
テロワールは、人智の及ばない巨大な力。
だけど、その力を引き出して最大限に生かすのも、ダメにして殺してしまうのも、
最後はその場所でワイン造りに関わる人間の手と魂だ、ということ。
僕は個人的には、そういう意味で「人」もテロワールの一部なのかもしれない、と思っています。
・・・これを、シリーズの締めくくりと致します。
では、ワイン専門商社フィラディスの直販ショップ Firadis WINE CLUBよりシャンパーニュをご紹介。
新しい世代におけるテロワール表現の求道者と言えばこの造り手しかいない、くらいに思うからです。
「シャルトーニュ・タイエ キュヴェ・サンタンヌ・ブリュットN.V.」をご紹介です。
スター生産者として今世界中で大注目のシャルトーニュ・タイエ。 様々な土壌タイプの畑からのワインをブレンドすることでメルフィの エッセンスを昇華させ、タイエが根差すテロワールを総合的に表現した1本。 ・・・とは言え、決して難解だったり複雑だったりしないのがタイエの 素晴らしさ。リンゴの蜜のふくよかさとさわやかさを思わせるエレガントな 香りが心地よい。旨みとして感じる細やかなミネラル感と果実のジューシーさに 富むアタック。ハチミツやバターのふっくらとしたボリュームに加え、長期熟成 の複雑さ、そしてアフターのフレッシュさが全体のまとまりを良くしています。 高く広く華やかに感じられるのは、砂を多く含むメルフィのテロワールならでは。 キュヴェ名はメルフィの守護聖人「サンタンヌ」に因みます。
現当主のアレクサンドル・タイエはあのジャック・セロスの下で実地的な経験値を積み重ね、
家族のドメーヌを後継してからは畑のテロワールを徹底的に分析・研究する理論派生産者。
テロワールの異なる区画毎に細かく仕込まれていくシャンパーニュは驚くベき精度と的確さで、
彼の目指す理想的な表現に構築されていく…。
タイエのシャンパーニュは、「探求を極めたものだけが辿り着く理想郷」のような1本です。
レストランに行った時「シャンパーニュ、タイエは無いですか?」と聞くだけで、
ソムリエから一目置かれてサーヴィスが格段に良くなる・・・と思いますよ。
今や世界的に奪い合いのタイエ、正規代理店のTHE CHAMPAGNEならいつでも安定的に取り扱っています。
同じくらいの価格の有名ブランドとは世界観の大きさが全く違うこの1本、是非お試しくださいませ。
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