「テロワール」って何??その5:降水量
土壌・地形・日照時間・気温、とご説明をしてきて今回が構成要素の最終回。
「雨」についてのお話です。
⑤降水量
「雨」というものは、我々人間を含む全ての生き物にとって、2つの相反する存在となりますよね。
ひとつは勿論、動植物が生きていくために必要不可欠なものとしての役割。
今年、関東地方は梅雨に入っても雨が足りず深刻な水不足に見舞われました。
利根川水系のダムでは取水制限となり、一部地域では家庭への給水制限も行われたそうです。
水が無ければ、全ての動植物は死んでしまう。
こういう時に「降ってくれる雨」に対して僕らは「恵みの雨」と呼びますよね。
一方でもう一つは、生き物にとって自然の脅威としての存在。
関東が水不足になった一方で、九州では記録的な大雨が降り続き、土砂災害などで亡くなった方もいます。
2016年6月19日~21日までの3日間で、500mmの雨が降った地域もあるとのこと。
(*この「3日で500mm」という数字は今憶えておいてください。)
こんな時には「自然の脅威」と呼ぶしかない。
時には恵み、時には恐ろしい脅威。降らなくても困るし、降り過ぎても困る。
そんなとてもシンプルな事実が示すのは、
「雨は、テロワールの構成要素の中で非常に不確実で不安定なもの」ということです。
土壌や地形、日当たりなどは、ある土地を所有した時から比較的安定して存続するものです。
(土砂崩れや地震などで変形する可能性、はあります。)
ですが、「雨」や、それに連動する日照時間や気温は、人間が決してコントロール出来ないもの。
つまり、テロワールは、その場所にさえいれば獲得できるものと、
刻一刻と変化する不安定なものの2つで構成される概念、ということです。
ここで、ワイン産地のブドウにとっての雨、について考えましょう。
以前、ブドウは非常に生命力が強い植物で、砂漠のような場所でも何とか育つ、と書きました。
勿論完全に水分ゼロでは枯死してしまいます。
本当に雨の少ない地域では、灌漑などを実施してスプリンクラーなどでブドウに水分を与えています。
以前オーストラリア内陸の栽培地を訪れた際に、飛行機の窓から見えた景色が印象に残っています。
荒涼たる砂漠の真ん中、灌漑されている区画にだけ青々と植物が茂っているのがはっきりと見えました。
その一方で、水分に恵まれ過ぎた肥沃な土地だと枝・葉が必要以上に成長し過ぎてしまいますし、
例えば収穫直前に多量の雨が降ってしまうと、果実が水分を吸収し過ぎて水膨れとなってしまう。
糖度・凝縮度の低い果実になり、ひどい時には水分過多で実が破裂(玉割れ、といいます)してしまいます。
つまり、ブドウ栽培地で最も望まれる気候は、
秋の収穫が終わって翌年の開花まで適量の雨が降り、開花~収穫までは日照に恵まれる、ということです。
例えば、開花期に雨や雹が多く降り、
遅霜まで発生という今年2016年のブルゴーニュの気候は、まさに最悪の気候条件だったと言わざるを得ません。
では、具体的に最も適した降水量はどのくらいなのか。
この数字は憶えておくと良いと思います。
欧州のいわゆる有名産地は、大体年間降水量が600~1,000㎜の範囲に入るかと思います。
ボルドーで800mm前後、ブルゴーニュで700mm前後でしょうか。
そして、ブドウの生育期間である4-9月頃の降水量がその半分を切っていれば良好と言えます。
話は戻りますが、この降水量から考えても今回の九州の「3日で500mm」というのが
どれほど凄まじい雨だったのかが実感されます・・・。
ブドウにとっても、雨は「恵み」であり同時に「脅威」。
ヴィンテージ毎のキャラクターの差に最も影響するのが、降水量と降ったタイミングです。
この不安定要素と毎年格闘するワイン生産者たちのことを思えば、
「~年は雨が少なくて良かった年 / ~年は雨が多かったからダメな年」なんて一言では片付けられませんよね。
ワイン好きの皆さんには、是非とも毎年の各産地の気候状況に興味を持って戴きたいですね。
と同時に、様々な不安定要素を超えて出来たその年のワインは「出来/不出来」ではなく、
その年のワインでしか体験できない特別な個性なんだ、という捉え方をして戴ければ嬉しく思います。
2016年の最悪な条件を乗り越えて誕生したワインたちがどんなキャラクターなのか、
僕は今からその個性を味わう瞬間を楽しみにしています。
今回の内容に関連したワイン・・
話の締めくくり上、「雨の多かった年のワイン」をおススメしてもよいのですが 笑
「そもそも雨が非常に少ない地域のワイン」をご紹介します。
雨が少ない=乾燥している気候。
スペイン内陸部にあるカリニェナ地域は、土地が痩せ、乾燥し、冷たい北風が吹く厳しい大陸性気候の産地。
そのひび割れて乾燥した大地の地下深くまで根を張りめぐらせ、
生きるための水分・養分を必死に追い求めるブドウ樹が結実させた果実の濃厚な凝縮度は、言葉を失うほど。
取りこめる水分が最小限なだけに、十分に上がって行く糖度とエキス分。
その力を、まざまざと感じさせられる1本です。
ワイン専門商社フィラディスの直販ショップ Firadis WINE CLUBより『アナヨン・シャルドネ』をご案内。
過酷な環境で育つことでしか得られない充実した果実味、体感してください!
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