同じヴィンテージを比較してこそ見える“スタイルの差”(垂直試飲”と“水平試飲”の意味③)
“垂直試飲”“水平試飲”というテイスティングを実施する意義について、引き続きお話をしたいと思います。
(*このコラムをこのページから読み始めたというお客様は、まずは第1回目のコラムからお読みください!
おさらいしますと・・・まず“垂直試飲”とは、
「同じ生産者の同じワインを、異なる生産年=ヴィンテージで複数揃えて比較するテイスティング法」。
この“垂直試飲”をすることで見える、以下の2つのことについてお話をしてきました。
1.各ヴィンテージの特徴(作柄がどう表現されているか)
2.熟成のポテンシャルと香味変化の傾向
”水平試飲”すると、何が分かるのでしょう?
今回からは続いて“水平試飲”というテイスティング法について、その意味を考えていきたいと思います。
“水平試飲”とは簡単に言えば、
「一つのヴィンテージ・同じ地域で異なる生産者のワインを比較するテイスティング、
または、一つのヴィンテージ・同じ生産者で異なる生産地(畑、村など)のワインを比較するテイスティング」です。
この試飲を実施することで分かることは、ざっくり言えば
①一つの年の同じ気候・環境条件下でワインを造った時に分かる、生産者毎の「スタイル」の違い
②同一条件下でこそ比較できる、生産者毎の「力量」
③ある狭い地域・同じ生産者等の条件で比較をした場合には、テロワールの違いによるワインの「キャラクター」
垂直試飲が「同じワインでヴィンテージだけ違う」という比較のしやすい条件であるのと比べると、
水平試飲はヴィンテージが同じだけで後はすべてバラバラ。
テイスティングの前提として、ある程度産地や生産者に対する知識も必要となり、
かなり突っ込んだ観点でワインに向き合い、評価することになります。
今回はまず①「生産者毎のスタイルの違い」からいきましょう。
これは、「一つのヴィンテージ・同じ地域で異なる生産者のワインを比較するテイスティング」で見えるものです。
例えば、2つの生産者で比較してみると・・・
ある一つの生産地の中で隣接する2つのワイナリーがあるとしましょう。
例として、ボルドーの同じ村(メドック地区)の中にあるシャトーをA,Bと2つ設定します。
そして水平試飲で比較する年は、
春からずっと温暖、収穫直前には異常気象とも言える猛暑、
雨がまったく降らない乾燥した1年だったヴィンテージ、と仮定しましょう。
元来がっしり・パワフルなスタイルを目指している「シャトーA」。
樹齢の高い樹から収穫されるブドウを存分に使い、飲みごたえとインパクトのあるワインが信条。
今年の猛暑によって過熟とも言えるまで熟したカベルネ・ソーヴィニヨンを、
いつも通り存分に使いました。
煮詰めた黒系果実のような熱を感じるニュアンス、
そして例年よりもさらに力強いタンニンは、若いうちには強過ぎて飲めないくらい。
十分な長期熟成を要する、ポテンシャルに溢れたワインに仕上げました。
一方でシャトーBです。
こちらは、「エレガンスとバランス」の取れたスタイルを目指す造り手。
やや雨が多かった年などでも持ち前のセンスで非常に繊細なワインを造る、クラシカルな造りがポリシー。
少し早めに収穫したにも関わらず、あまりの暑さで過熟したカベルネを多く使ったとすると、
エレガントなワインには決してなりません。
だからシャトーBはこの年、メルロやカベルネ・フランなどの品種の比率をいつもよりも高めることを決めました。
繊細なバランスを保つためにカベルネの比率を少しだけ下げ、
例年よりも力強さはありながらも、パーフェクトに調和したワインを仕上げました。
このように、同じ条件下だったとしても、
生産者によって異なる「目指すワインのスタイル」により、仕込みへの取り組み姿勢は大きく変わります。
極端なことを言えば、同じ地域の生産者でも求める天候が異なる、ということだってある訳です。
そりゃあ天気が良いのに越したことは無いですが、望んでいる「良さ」には差があったりもします。
僕は水平試飲をするとき、生産者毎のスタイル・方向性の違いを知るのをとても面白いと思っています。
あるワインを単体で飲んだ時だと、そのヴィンテージの気候条件がどうだったのか、
という事前情報から判断して「やっぱりとにかく暑かったんだな、それらしい味だな」と思うのですが・・
複数を比較すると、
「異常なほど暑かったのに、この生産者はさすがにバランス良く造るな、良く考えたな」
「この生産者は天気の良さに甘えて、ただそのまま造っちゃったな」
なんていうことが客観的に判断出来るようになるわけです。
やっぱり、ワインを良く知るには、比べてみるのが一番だな、と思います。
それでは、今回はこの辺にしておきまして、次回以降も引き続き“水平試飲”の話題を続けますね。
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