ワインのある景色―10月 (30)
- 2026.10.01
- ワインのある景色
目次
ノルマンディー 葡萄の育たぬ地の銘酒
フランス北西部ノルマンディー地方。英仏海峡に面したこの地は牧草地で牛がのんびりと過ごし、リンゴ畑が点在する、どこか牧歌的で心和む景色が広がっています。年間を通して比較的冷涼で降水量の多い気候はブドウ栽培には向いておらず、その代わり古くからリンゴの栽培が盛んで、秋になると赤や黄色に色付いた様々な種類のリンゴが収穫期を迎えます。海風を受けて育つリンゴは日本よりも小ぶりで酸味のしっかりしたものが多く、生で楽しむだけでなく、お料理やお菓子、そしてこの地方の銘酒シードルやカルヴァドスの原料となります。
伝統の陶器「ボレ」で乾杯、郷土を愛するシードル
シードルは地元の食卓には欠かせない低アルコールの微発泡酒。爽やかな酸味と優しい甘味が魅力的で、乳製品と海の幸に恵まれたノルマンディーの食文化を一層引き立てます。ノルマンディーの食を代表する1つが、皆様ご存知、世界的に有名なカマンベールチーズ。ノルマンディーのカマンベール村で生まれたのがその起源で、この地方こそが本家本元の産地です。外はやわらかくしっとり、中はとろりと濃厚。ミルクの甘みとコクが広がる、幸せな気持ちに包まれるチーズです。また、牛のモツをシードルやカルヴァドス、香味野菜と一緒にじっくり煮込んだ郷土料理 「トリップ・ア・ラ・モード・ド・カーン」、生牡蠣、魚介類をクリームソースで仕上げた料理など、大地と海の恵みを一緒に楽しめるのがノルマンディーの魅力です。そして、忘れてはならないのがそば粉のガレット。香ばしく焼き上げた生地に卵やハム、チーズをのせたシンプルなスタイルは家庭やカフェの定番です。これらのお料理の横にはいつもシードルが寄り添い、ボレと呼ばれるカフェオレ・ボウルのような伝統的な陶器のカップで頂くのが現地流。ボレの温かみのある質感と手に馴染む大きさが心地良く、グラスで頂くのとはまた違った時間が流れているような気がします。
至福の食後酒カルヴァドス 樽香が奏でる大人の時間
もう1つのお酒カルヴァドスはシードルを蒸留して樽で熟成させたブランデー。若いカルヴァドスは果実味が主張してフレッシュですが、樽で長期熟成させるとバニラやスパイス、ナッツのような香りが加わり、複雑で滑らかな味わいとなります。食後酒として楽しむのが一般的ですが、現地では 「トゥルー・ノルマン(Trou Normand=ノルマンディーの穴)」 という面白い飲み方をします。
目の前にあるたくさんのお料理や次々に出てくるコース料理を頂いている途中で、「食べたいけれど、お腹がもういっぱい」 ということがありませんか?そんな悩みを解決(?)する伝統的なこの飲み方は、食事の途中でカルヴァドスを摂取して胃をリセットし、引き続き食事を楽しむというもの。リンゴや柑橘類のシャーベットにかけて食したり、ショットグラスで「キュッ」と飲み干したり。私が現地の人と訪れたレストランでは、カルヴァドスを一気に飲み干した後にジャンプをする習慣もあるという話しになり、みんなでその場でジャンプを数回しました。彼ら曰く、「ジャンプして胃の中のものを下げて、空間を作るんだよ」とのこと。この空間が「ノルマンディーの穴」なのですね。本当に胃の中にスペースができるのかどうかはさておき、その場を盛り上げるにはなかなか楽しい習慣です。
ノルマンディーが選んだ、リンゴという誇り
ブドウではなくリンゴを選ばざるを得なかったノルマンディーですが、その選択は決して妥協ではなく、シードルやカルヴァドスという比類なきお酒を生み出し、人々の生活に深く根付いています。
2023年5月から、「定期ワインコース」のお客様にお届けする冊子「エフスク」にコラムを連載しています。「ワインが好きだな。ワインのことを知りたいな。産地に行ってみたいな。ワインが飲みたーい!」と、皆様に思って頂けるようなワインのある景色をお届けできればと思っています。引続きどうぞよろしくお願い致します。
ライター紹介:新井田 由佳(Yuka Niida)

・J.S.A.認定 ソムリエ
・La Confrerie des Hospitaliers de Pomerol ボルドー ポムロル騎士団称号
大手総合商社在職中にワインに魅了され、退職して渡仏。ブルゴーニュを中心にフランス、イタリアの数多くの生産者を訪問し見聞を広める。知れば知るほど魅了されるワインの世界について、もっと知りたい!が現在進行形で継続中。
-
前の記事
ワインのある景色―9月 (29) 2026.09.01
-
次の記事
記事がありません




