ブドウ品種を知ると、ワイン選びが一歩進む⑨日本で最初に人気になったブドウ品種かも?「リースリング」
- 2020.03.06
- なるほどのあるワインコラム
- シャルドネ, ソーヴィニヨン・ブラン, ソムリエ, フランス, 熟成, 生産者, 貴腐ワイン, 輸入, 香り
前回に引き続き初夏の季節においしいワインのブドウ品種を・・・
ということで、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブランと並ぶ白ブドウの高貴品種、
『リースリング』種についてのお話をしたいと思います。
この品種、おそらく現在60代以上の方々がワインを飲み始めた頃、
最もなじみ深いポピュラーな品種だったのではないでしょうか。
日本のワイン市場についての歴史を紐解くと、一般家庭でワインが飲まれるようになったのは1970年代前半。
高度経済成長期の1970年に外国産ワインの輸入が自由化され、
2年後の1972年に初めてワインが一般消費者の中で爆発的な「ブーム」となりました。
では1972年に何があったのでしょうか。
記憶されている先輩方も多いかと思います、この年はあのサントリー『マドンナ』が発売された年ですね。
ドイツワインの有名銘柄「リープフラウミルヒ(独語で“聖母の乳”の意味)」
の名前を分かりやすく『マドンナ』とアレンジし、
憶えやすい名前と甘く飲みやすい味わいで日本に第1次ワインブームを巻き起こしました。
このワインは実はドイツ系ブドウ品種4品種のブレンドワインですが、
日本人の舌に「ドイツ産やや甘口ワインの味わい=飲みやすくおいしいワイン」、
というスタンダードを刷り込む役割を果たしたようです。
そしてそれはイコール、ドイツを代表する品種=『リースリング種』が、
日本人のワインライフに最初に定着した品種となるきっかけでもありました。
そして、リースリング種のワインで最も希少なワインである
「トロッケンベーレンアウスレーゼ」(乾いた粒選り、の意味。全てが貴腐ワインでは無く、
ブドウが干しブドウ化するまで収穫を遅らせて粒ごとに収穫して仕込む極甘口ワイン)のイメージから、
今でも『リースリング』種を「甘口ワインのための品種」と考えている方も少なくないようです。
ですがこれは決して正しい認識ではありません。
その方向性で捉えるならば、リースリングは最も甘辛の幅が広く作れる品種の一つ、と位置付けるべきですね。
リースリング種は、遅摘みによる極甘口ワインから非常にエレガントな辛口ワインまで仕込める、
振れ幅の広いブドウ品種です。
実際、極甘口ワインの消費量が世界的に減少傾向にある現在は、
多くの生産者がエレガントドライなリースリングのスタイルに舵を切っています。
青リンゴやライム、白いお花等に代表される若々しく華やかなイメージの香りと、
豊富なリンゴ酸により切れ味シャープ且つ上品な味わいを作るブドウ品種。
収穫を遅らせることで甘口向けに糖度を上げていくことは出来ますが、本来の品種特徴は豊かな酸。
若い段階でのフレッシュな美味しさもさることながら、
長期熟成した時の奥深い優雅な味わいも楽しめる、熟成面でも味わい幅の広いブドウ品種、
と言えるかも知れませんね。
最後に。。。この品種の味わいを表現する際の典型的なボキャブラリーに
「Gout de Petrole(ペトロール)」というものがあります。直訳すると、「石油=オイル味」でしょうか。
一部のリースリングには、石油、というかゴムのような独特の香りを持ったものがあります。
これは決して品質の低いリースリングにだけ出る香りではなく、
上級生産者のリースリングにも含まれることがある独特の香りです。
(この香りの発生する原因などについては、今後ワインの製法の項などで触れるかと思います。)
余談ですが、僕がワイン業界に入ったばかりでソムリエ試験に向けての勉強をしていた頃の話です。
それぞれのブドウ品種特徴を把握する際に、リースリングの特徴は
「夏の焼けたビーチサンダル」とじぶんの中で定義していました。
以前カベルネ・フランの項では「しば漬けの香り」と定義していた、というお話もしましたが、
自分の中でのブドウ品種特徴の捉え方なんて、こんなもんです。
本に書いてある「品種の表現」だけを覚えていても、それが青リンゴなのか桃なのか、
なんてなかなか客観的に位置づけられないもの。
もし色々なワインの味を自分の中で納得がいくように位置づけたいなら、
自分なりの表現を見つけるまで、その品種の様々なワインを飲んでみることが一番だと思います。
皆さんも「夏の焼けたビーチサンダル」、探してみてくださいね。
さて、今回のマメ知識コラムに出てきたワインのご紹介です。
リースリング種と言えば、CLUB30開業以来常に30本のレギュラーメンバーである大人気の1本があります。
「エミール・ベイエ リースリング・トラディション」
こちらは、ドイツと並ぶ上質なリースリングの代表的産地、フランスのアルザス産。
僕はこのワインに、日本人の繊細な味覚に実に合っているワイン、という紹介を書きました。
これは、今回の品種紹介後半で書いたような、エレガントドライなスタイルのリースリング。
実際に飲んで頂くとすぐに納得頂けると思うのですが、
日本的な「侘び寂び」を内包した味覚・風味に最も寄り添うイメージのワインです。
この感覚は、他の品種にはなかなか無いのでは・・・??
リースリングという品種をちょっと敬遠している方は、この1本から入って頂くと、
そのしみじみとした魅力の虜になりますよ♪
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