ブドウ品種を知ると、ワイン選びが一歩進む②魔性の品種、ピノ・ノワール

ブドウ品種を知ると、ワイン選びが一歩進む②魔性の品種、ピノ・ノワール

「ブドウ品種を知ってワイン選びを一歩進める」シリーズ第2回は、

ブルゴーニュワインという出口のない迷宮にあなたを誘う罪作りな品種。

『ピノ・ノワール』についてのお話です。

 

『ピノ・ノワール』と言う品種は、

単独(1つのブドウ品種100%のワイン)で使われるケースが最も多いブドウ品種の一つです。

ワインスターターの方、まず『ピノ』と略して呼ぶのは止めましょう。

『ピノ・○○』系の品種が実は100種類以上ありますからね。

(*CLUB30は「初心者」という呼び方はあまり好きじゃないので、

ワインを始めたばかり、という意味の「スターター」という呼び方にしています。)

 

『ピノ・ノワール』種の代表的な産地は、勿論フランス・ブルゴーニュです。

スターターの方でも、有名な『ロマネ・コンティ』は知っていますよね。

『ロマネ・コンティ』は、ピノ・ノワール種100%で造られるワインなのです。

 

この品種は元来、限られた土壌・気候の環境下でないと栽培できないものとされていました。

例えばロマネ・コンティが造られる「ヴォーヌ・ロマネ」村や周辺地域の、

粘土質と石灰質を含む土壌は世界で最も偉大なピノ・ノワールを作る基盤です。

そして、夏の日中は十分に温暖で、夜間は涼しくなり冬は寒い、寒暖差のある場所。

これがかつてのピノ・ノワールの育成条件でした。

 

ですから、ブルゴーニュ以外の栽培地はそれより北で冷涼なシャンパーニュやアルザス、

ロワールの内陸、そしてドイツやオーストリア、イタリア北部の標高の高いエリアなどが

主要な栽培地でした。近年は品種交配・品種改良でさまざまな産地で栽培されています。

 

その中でも品質が優れているのはやはり欧州同様に冷涼な地域。

映画「サイドウェイ」でも注目された北米カリフォルニアやオレゴン州、

オーストラリアのタスマニアやヤラ・ヴァレー、ニュージーランドのマールボロ、

チリのカサブランカ・ヴァレーといった、いずれも涼しい地域です。

ちなみに、ドイツでは“シュペートブルグンダー”、イタリアでは“ピノ・ネロ”という

名称で呼ばれていますが、北南米やオセアニアでは国際品種としての「ピノ・ノワール」が定着しました。

 

この冷涼な産地が生みだす香りと味わいこそが、ピノ・ノワール最大の個性。

それを一言に凝縮するのは非常に難しいですが、

ワインにおける「エレガンス」「官能性」の両極を最も美しく同時に体現する、

「魔性の品種」だと僕は思います。

 

その味わいを形作る『ピノ・ノワール』というブドウは、どんなブドウなのか。

まずはブドウの形について。

ブドウの房の形は大まかに2種類に分かれます。縦長に細長く実る品種と、丸く集まったように実る品種。

ピノ・ノワールは後者で、松ぼっくりのような形状に実ります。

フランス語で松のことを「Pin」といいますので、そこから「Pinot」という名前が付いたようです。

これ、ちょっとしたマメ知識ですので、覚えておくとよいですよ。

 

そして、ブドウ果実としての最大の特徴は、「果皮が薄く、色素が少ない」ことです。

以前このメルマガでも解説をしましたが、ワインの色調及び渋み成分タンニンの強弱は、

全て果皮の厚さに由来します。

 

果皮の内側、果実との中間にある層(巨鋒ブドウの皮を指で剥いた時に残る、紫色のところです)が

ワインに抽出される色素やタンニン分ですので、

果皮が薄いということはイコール色調が明るく、渋みが控え目なワインになる、ということです。

実際、特に手頃な価格帯のピノ・ノワール(「ブルゴーニュ・ピノ・ノワール」など)は、

グラスに注いだものを上から覗き込むと、グラスの脚が透き通って見通せるワインが多いと思います。

 

そして、最も重要な特徴はピノ・ノワールの果汁に豊かに含まれる「酸」。

これがピノ・ノワールをエレガントで長期熟成するワインたらしめるポテンシャルの要です。

ピノ・ノワールは冷涼な気候で育つことにより酸を十分に蓄え、

出来たての頃は野イチゴやサクランボのような赤い果実のイメージが特徴的ですが、

この酸が長期熟成するにつれて枯葉や香辛料のような複雑なニュアンスを獲得していきます。

実際、ピノ・ノワールの生産者が自分のワインについて語る時は、

「酸」の質について言及することが非常に多いです。

もしブルゴーニュを訪問してワインを試飲して感想を聞かれたら、

香りを幾つかの果物や花などで表現した後に

「Acid(酸)」がvery niceとかelegantだ、などと表現すると「こいつ分かってるな」と思われますよ。

 

そして、この「果皮が薄い、タンニン含有量が控え目、酸が豊富」という要素が、

ピノ・ノワールが黒ブドウながらシャンパーニュ(又は一部のスパークリングワイン)

の「白」の原料にも使用される所以。

シャンパーニュで言う所謂『ブラン・ド・ノワール』は、黒ブドウの果汁だけを絞り取ることで造られます。

(これについては、THE CHAMPAGNEのコラムに詳しく記述してありますので読んで下さい)

僅かに微かに、果皮から抽出されるタンニンと赤い果実の香りとフレーヴァーが、

ブラン・ド・ノワールのシャンパーニュにボリューム感や丸みを与えるのですね。

 

今回は『ピノ・ノワール』種をテーマに、

ブドウ品種の「キャラクター」を構成する要素にはどんなものがあるのか、についてのお話でした。

勿論、これがピノ・ノワールという品種のすべてではありません。

このCLUB30ワインセミナーシリーズは始まったばかりですので、

今後のテーマによってピノ・ノワールを引き合いに出す機会はまだまだあるかと思います。

まずはこのあたりのところからきちんと把握しておいて欲しい、という内容でした。

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