ワインと食事の「マリアージュ」について、整理してみよう⑤『チーズとワインに代表される「補完のマリアージュ」とは??』
今週はマリアージュ編の⑤、「3つのマリアージュ」遂に最後の一つです。
それは『補完のマリアージュ』。
『同調』や『中和』に比べると一見地味ですが・・・
食材/料理とワイン、互いが味わいを補いつつも新たな風味を創造し、マリアージュのパズルを完成させていく。
2つのコンビネーションが新たな味の領域を切り開く、これぞまさに“マリアージュ究極形”です。
もう少し具体的にご説明をします。
以前、ワイングラス実験のレポート冒頭で人間の味覚について触れたのを憶えていらっしゃいますでしょうか?
甘味、塩味、酸味、苦味、旨味の5つから成る「五味」が全ての食ベ物・飲み物の味を構成しており、
人間は五味の各味を別々の信号として認識し、最後に統合して味わいを感じている、という話しでした。
『補完のマリアージュ』は、片方に欠けている五味の要素をもう片方が持つ五味要素で補うことで
“五味の完全なバランスが取れた状態に辿り着くこと”、別名「五味のマリアージュ」とも呼べるでしょう。
例えば・・塩味・旨味がふんだんにあるけれども、
甘味や酸味が無い食材や料理にワインを合わせるというのが最も基本的な組み合わせ。
ワイン専門商社フィラディスの直販ショップ Firadis WINE CLUBのマリアージュレシピの中でこの系統のマリアージュと言うと、
「魚介類のワイン蒸し×ボルドーの白ワイン」が当てはまります。
あさりと白身魚の塩味・旨味、そして少しの苦味に、
ワインによる果実の甘味と爽やかな酸味が重なることで互いが補完し合う。
そこには、五味の全てが存在するきれいな調和状態が生まれます。
もっとシンプルなものでは・・・チーズとワインのマリアージュがまさにこの「補完」。
チーズに欠けている甘味・酸味がワイン側にふんだんに含まれている場合、
それらを同時に口に入れると五味の調和状態が生まれ、全体の味わいに伸び広がりが生まれる。
これこそまさに「五味のマリアージュ」です。
そして、このマリアージュを生みだす最強の組み合わせとも言えるのが、
これまでも何回かこのメルマガでご説明したことのある「極甘口の貴腐ワイン×ブルーチーズ」です。
チーズの中でも特に塩辛さがあり、青カビ独特の旨味がたっぷりと含まれるブルーチーズ。
その2つの味覚が突出していながらも、甘味や酸味の要素はほぼ存在しません。
この食材に対してワインで補完してバランスを取ろうとするならば、
不足している甘味・酸味・苦味をかけ合わせれば良い。
その時に選ぶべきは、「十分な甘さの中に、心地よい適度な酸味が含まれるワイン」となります。
この絶妙なバランスに到達できるのが、『貴腐ワイン』というわけです。
『貴腐ワイン』についても、おさらいのためにもう一度ご説明しておきます。
まず、貴腐ワインは「貴腐ブドウ」によって作られるワインです。
貴腐=腐った、と言う文字ですが、果実が単純に腐ったわけではありません。
ある限定的な気候条件のもとだけで発生する“ボトリティス・シネレア”という菌(カビ)がブドウに付着。
ブドウ果実中の水分だけを無くしてしまい、ブドウはまるで干しブドウのように枯れてしまう・・・。
これが「貴腐」状態です。
「貴腐ブドウ」の画像は今回ご案内のワインページに・・・
この状態のブドウは、水分だけを失っている分果汁の濃縮度は高まり、
極限まで高い糖度の果汁を持ったブドウができます。
この僅かに残った非常に甘い果汁を搾って仕込むのが『貴腐ワイン』。
フランス語で「Pourriture noble(プリチュール・ノーブル)=高貴に腐った」と言われ、
つまり日本語の「貴腐」という一瞬目を疑うような呼び名は、正しく直訳された名称なのです。
貴腐ワインの世界最高の産地が、ボルドー地方の「ソーテルヌ」村。
この地域は、シロン川という小さな川が、大河ガロンヌ河に流れ込む場所。
温度の高いシロン川の水が冷たいガロンヌ河に流れ込むときに発生する温度差により霧が発生し、
その霧が南側に向かって流れることで、ソーテルヌ地域のブドウにカビを発生させると言われています。
(*この地理条件についても、ワインページ上で図説していますので、是非見てみて下さい。)
この現象、決して毎年必ず発生するわけではありません。
様々な気候条件が重なり合い、全てが合致して初めて発生する自然の恵み。
だから、貴腐ワインの生産者は、ワインを毎年造ることができるかどうかは分かりません。
カビが発生しなかった年は、普通の辛口白ワインを仕込むことになります。
全て自然の赴くままにしか造れないが故、貴腐ワインは生産量も限られ非常に高価。
この地域のトップワイン、「シャトー・ディケム」はリリース時点で5万円を超えていることもあります。
ソーテルヌが世界中で最も素晴らしい貴腐ワインと言われるのは、
単に甘いだけではなく非常に繊細な酸味を携え、ワイン単体でもその2つが完璧に調和しているから。
酸をふんだんに含んでいるが故に、若いうちからフレッシュにおいしく楽しめて、
しかも数十年もの、場合によっては100年の長期熟成にも耐えうる。
・・・まるで、永遠に輝きを失うことの無い宝石のようなワインです。
極甘口のワインは、確かに好き嫌いが分かれます。
でも、今回のコラムで書いたからには『「補完」のマリアージュ』を是非とも体験して戴きたいと思い、
ソーテルヌでシャトー・ディケムなどに次ぐ「2級格付け」を冠する銘生産者
「シャトー・ラモット・ギニャール」の2012年ヴィンテージを、
今回も375ml(ハーフはあまり作られていないのです)で12本だけご用意しております。
ソーテルヌでは1級以上は僅か12シャトー、2級も14シャトーしか存在しない、厳格な格付けがされています。
その14シャトーの一つをご紹介させていただきます。
これを体験せずに、「マリアージュ」は語れない!!!
このワインがブルーチーズと産み出す「補完のマリアージュ」は天に昇るような素晴らしさです。
ですから、『補完のマリアージュ』を未体験で、しかも強くご興味のある方だけにおススメ致しますね。
「究極のマリアージュ」、この表現が決して大げさで無いことをご自分の舌で是非とも実感してみて下さい。
ちなみにソーテルヌのワインは必ずしも1日で一気に飲み終えなくても大丈夫。
ハーフボトル1本を毎日食後に少しずつ、3~4日に分けて楽しめば良いのです。
糖度が高くとても酒質の強いワインですので、そのくらいでは全く劣化しません。
その日の1杯を飲み終えたら、コルクを挿して再度冷蔵庫に入れておきましょう!!
家にソーテルヌが1本あるだけで、毎日の食事の締めくくりがとても贅沢に変わります。
甘~い味わいで、その日一日の疲れも癒されますよ。
甘口のワインなんて興味が無い、という方も、騙されたと思って1本試してみてください。
自然と顔がほころぶようなワインって、なかなか無いものですから(^u^)
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