ワインと食事の「マリアージュ」について、整理してみよう①
前回の「グラス実験レポート」が終わってから、
ずっとこのメルマガセミナーの次の展開に悩んでいました。
『テロワール』、「ワイングラスの真実」、と結構厄介なところに踏み込み続けてきたので、
もうちょっと簡単なところに戻ろうかな・・・と思ったりして。
だけど、やっぱり決めました。
あまり他のサイトにちゃんと書いてない、
多分大変だからみんなが書かないところを書くことに。
その方が、皆さんにちゃんと読んで戴けますしね。
・・・ということで今回からはこのテーマ。
『テロワール』に匹敵するくらい抽象的で大きく、なかなか腹落ちしないやつです。
でも、料理とワインの相性を積極的に提案しているワイン専門商社フィラディスの直販ショップ Firadis WINE CLUBだからこそ、
これに対する考え方・取り組み姿勢をしっかりと明らかにしておきたい、と考えました。
3回・・いえ、5回くらいかかるかもしれません。
気長にお付き合い頂ければと思います。
『マリアージュ』という言葉、最近はすっかりお馴染になって来ました。
フランス語で「結婚」を意味するこの言葉。
「ワインとお料理の相性が素晴らしく良いこと」を、
とてもロマンティックに表現した言葉としてワイン愛好家以外にも広く知られるようになりました。
確かに、ワインの国フランスらしいとても素敵な表現ではありますが、
実はワインだけに使われる言葉ではなく、様々な芸術表現において使用されます。
例えば絵や音楽、建築などの分野にも「マリアージュしている」と評すべきものがあるということですね。
さて、これまで「ワインと食の相性」のルールは、ざっくりとこんな感じで語られてきました。
皆さんも当然ご存じの通りですが、
・重い赤ワインには、しっかりしたソースを使った赤身肉の料理。
・中口~軽めの赤ワインには、鶏肉、豚肉、白身肉の料理や赤身魚の料理。
・濃厚な白ワインには、バターを使っているようなしっかりした魚介料理。
・フレッシュな白ワインには、塩とレモンでさっぱりした味付けの魚介料理
・料理が色々で困ったら、ロゼワインやスパークリングワインなら大体合わせやすい….などなど。
また、
「地方料理にはその地方で造られたワインを合わせる」
という考え方もルールの一つとして知られています。
例えば「ブフ・ブルギニョン(牛肉のブルゴーニュ赤ワイン煮)」にはブルゴーニュの赤ワイン、とか、
南仏プロヴァンスの魚介と野菜の煮込み「ブイヤベース」にはプロヴァンスの白ワイン、とか。
日本だったら、沖縄料理を食べる時にはやっぱり泡盛、なんていうのと同じですよね。
これらの組み合わせは「基本のセオリー」としては正しいものです。
自宅でワインを気楽に、カジュアルに楽しむときはこのセオリー通りに料理とワインを用意すれば、
「全然合わなくて料理が台無し、ひどい思いをした」ということにはならずに済むと思います。
ですがそれは、
「まあ結構合う」「悪くない」「邪魔にならない」程度でとどまってしまうことが多いのではないでしょうか。
では『マリアージュ』とはどんなことを言うのでしょう?
僕は、これらの「合わせやすい組み合わせ、相性」的なものから一歩進んだところ・・
いえ、もっともっと遥か先にある場所、だと考えています。
ワインと料理の出会い。
それは、漂う香りが重なり合った瞬間から始まっています。
2つの香り、2つのテクスチュア(食感)、2つの風味。
それらが出会った時に、いったいどこまで連れて行ってくれるのか。
想像していたものを遥かに超える、驚き・衝撃・感激がある、
その瞬間が訪れることこそが『マリアージュ』なんだと思います。
僕たちフィラディスは、これまで沢山の食材・料理で『マリアージュ実験』を実施してきました。
牛肉、豚肉、チーズ、帆立、ジビエ・・・。
特定の食材や調理法に対し、いちばんマジックを起こすことのできるワインは何なのか。
ひとつの食材に対して数十種類のワインを合わせてみて、最良のパートナーを探し出してきました。
時には、一般的にも鉄壁のマリアージュとされる、もはやスタンダードな組み合わせが実は間違いであった、
ということに気付かされ、愕然ともしてきました。
その中で常に気付かされてきたのは、
『マリアージュ』のセオリーは一つではなく、決して単純なロジックに基づくものでも無い、ということ。
ぴったりのはずのものが大喧嘩をし、犬猿の仲だったはずのものが手を繋ぐ。
だから、ざっくりとしたセオリーで済ませるのではなく、一つ一つを紐解いていかなければならない。
そして、そこがワインと料理の一番面白いところである、ということです。
・・・それでは第1回は一旦この辺で。
次回からはいよいよ『マリアージュ』の謎を解く冒険のスタートです。
最初に立ちはだかるのは、入口が3つある「マリアージュの洞窟」。
マリアージュに辿り着く道は一つでは無い、というところから始めていきましょう。
最後に、今回お薦めしたいワインと料理のマリアージュを一つ。
今回はまず、「柚子ポン酢で食べる豚の冷しゃぶ」と試して欲しいマリアージュ。
軽めの赤ワイン・・・を合わせると思う方も多いかと思いますが、
ここは断然白ワイン、リースリングを選びたいと思います。
『エミール・ベイエ リースリング・トラディション』を、試してみてください。
まず今回は、香りのマリアージュを楽しんで戴きたいですね。
柚子ポン酢の香りに、リースリングのハーブ的な、そして柚子のような香りが綺麗に寄り添います。
そして、豚肉の脂の甘味とジューシィな旨味。
焼き目を付けないしゃぶしゃぶだからこそ楽しめる豚の優しい甘味には、赤ワインより絶対に白ワイン。
甘味・旨味を伸びやかに拡大するタイプのワインが合う、という考え方です。
まずは、マリアージュの「例題」としてお試し戴ければ、と思います。
-
前の記事
『○○型ワイングラス』は、本当にそのワインに最適な形なのか?最終回 2020.05.11
-
次の記事
ワインと食事の「マリアージュ」について、整理してみよう②『「同調」のマリアージュとは』 2020.05.23