ワインボキャブラ天国【第40回】「ワインの熟成」英:ageing, maturing 仏:elevage
- 2020.06.24
- ワインボキャブラ天国
- 5大シャトー, カベルネ・ソーヴィニヨン, テロワール, フランス, ボージョレ・ヌーボー, ボルドー, メルロ, ワイナリー, 樽, 熟成, 生産者, 発酵, 赤ワイン
連載企画『Firadis ワインボキャブラ天国』は、ワインを表現する言葉をアルファベットのaから順にひとつずつピックアップし、その表現を使用するワインの例などをご紹介していくコーナー。
このコラムを読み続けていれば、あなたのワイン表現は一歩一歩豊かになっていく・・・はずです!
取り上げる語彙の順番はフランス語表記でのアルファベット順、ひとつの言葉を日本語、英語、フランス語で紹介し、簡単に読み方もカタカナで付けておきますね。
英仏語まで必要ないよ~、という方も、いつかワイン産地・生産者を訪れた時に役に立つかもしれませんから参考までに!!
ということで今回ご紹介する言葉は・・・
「ワインの熟成」
英:ageing, maturing
仏:elevage (*最初のeに右上がりのアクセント 男性名詞:発音は「エレヴァージュ」)
さて、第40回はちょっと長くなりますので・・・
お時間のある時にゆっくりお付き合いを戴ければと思います。
ワインの「熟成」とは、結局のところ「そのワインがいちばんおいしくなる瞬間に近付いていくまで、時間経過を待つこと」です。
「そのワインがいちばんおいしくなる」、つまりは“飲み頃”・・・
これは実は、永遠に正解の出せないワイン界最大の禅問答。
ワインのプロフェッショナルと呼ばれる全ての人が、毎日この結果の正解・不正解が見えない目標を探していると言っても過言ではありません。
世の中に存在する全てのワイン1本1本に「最高の飲み頃・おいしいピークの瞬間」があり、それは同じ生産年の同じワインでも、タンク単位・樽単位・果てはボトル単位で変化するもの。
そして同時に、飲み頃はひとそれぞれの味覚・味の好みによっても全く異なるもの。
つまり、絶対に正しいアンサーなど決して存在しない、と言うことを大前提として考える必要があります。
ワインの造り手=ワインメーカー・醸造責任者と呼ばれる人たちは、ワインを造る前段階でまずワインの「完成図」を思い描くことから始めます。
自分たちのもとにはどんな種類のブドウがどのくらいの量あって、どんなテロワールなのか、を前提にして、どんなワインを造り上げて行こうか、と考えます。
そしてその完成図の元となる“設計図”には必ず、「お客さんにいつ頃飲んでもらいたいか」というスケジュール想定があるわけです。
例えば、最も分かりやすい例としてまずはボージョレ・ヌーボーを取り上げましょう。
ボージョレ・ヌーボーの原料となるガメイ種ブドウは、大体例年8月の終わりから9月頃に収穫が始まります。
そして9月に仕込んだら2カ月も経たずにワイナリーから出荷され飛行機で日本へ。
11月第3木曜日の深夜0:00、解禁と同時に栓を抜かれます。
このワインは、この「11月第3木曜日」に飲まれてOK、ということを想定して設計されているわけです。
つまり、仕込んですぐ、熟成をさせずとも楽しめる味わい設計。
そこで、小慣れるのに時間を要する(=熟成期間が必要となる)タンニン分を出来るだけワイン中に溶出させない醸造法を採用しています。
炭酸ガス浸漬法=マセラシオン・カルボニックという方法です。
簡単に言えば、発酵の過程で発生した炭酸ガスを、タンクの中から放出させずにそのまま閉じ込めておくことで、果皮から色素だけを早く抽出することができ、渋み成分のタンニンが抽出される前に赤ワインの色を付けられる方法です。
また、その炭酸ガスをワイン中にも若干残しておくことで微発泡にし、フレッシュで爽やかな飲み口のワインに仕立てます。
若々しい味わいと、もぎたての果実の瑞々しい味わいが、収穫したてのブドウをイメージさせる。
これが、ボージョレ・ヌーボーの基本的な「飲み頃設計」です。
その対極に、“超”長期熟成を前提としたワインがあります。
こちらの代表格が、例えばフランス・ボルドーの特級、5大シャトーのワイン等です。
樹齢の高いカベルネ・ソーヴィニヨン種やメルロ種と言った原料ブドウが持つポテンシャル。
分厚い果皮に含まれる豊富な色素やタンニン、多層に渡る地質に深く根を伸ばして吸収した豊富で複雑なミネラル分。
それらが結集したワインは、仕込み直後の状態ではそれぞれの要素が強く突出していて、正直言って分かりやすく美味しさを感じられるようなものではありません。
威圧するような圧倒的なパワーと、時には攻撃性を感じることもあります。
こういったワインの「飲み頃設計図」には、10年どころか20-30年先の飲み頃スケジュールが書かれています。
醸造家たちは、もしかしたら自らも既にこの世にはいないであろう2-30年先の未来を想像し、その時代の人々が自分たちの作品を飲んで感動してくれる瞬間を思い描きます。
そこには、素晴らしき血筋、素晴らしい原料ブドウと最高のテロワールを持つものだけが手に出来る、熟成と変化の可能性が広がっています。
しかし、2-30年先を「飲み頃のポイント」に設計したとはいえ、熟成が思い通りに完璧に進むかどうかはまだ分かりません。
仕込みたてのワインは、仮にシャトーのセラーから一歩も出ずに完璧な環境を保たれたとしても、予想していなかったような変化を遂げる場合もあります。
そこには、良い方に転ぶ可能性・悪い方に転落してしまう危険性が共存しています。
ましてや蔵元を旅立ってからさまざまな人に運ばれ移動と保存を繰り返されたワインは、ボトル単位で全く違った熟成のプロセスを経ることになるでしょう。
そして・・・30年後を待たずしてピークから下降線を描いてしまうボトルもあります。
同じ親から生まれた子供でも、育った環境によって全く異なる人格に育つ可能性があるのと同じと言うわけです。
だから、長期熟成を前提とした「飲み頃が遥か先のワイン」ならば、可能な限り同じ環境下に置かれ続けていることこそが品質劣化のリスクから遠ざかることになる。
単純ながらこれこそが「最も良い熟成のプロセス」であると言えます。
ワインに限っては、もやし育ちの箱入り息子がいちばん安心で手堅いチョイス。
そしてそんな良い環境で静かに育ってきたワインを見つけてお届けするのが、Firadisの役目です。
これからも皆さんに、良好な環境で育ってきた可愛くできの良いもやしっ子たちをお届けしていきたいと思います。
ということで今週はこのへんで・・・
今日、あなたの表現するワインの世界が少し広がりました!
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