ワインの醸造について①
- 2020.11.05
- ちょっと知りたい、もっと知りたいワインの話
- イタリア, シャンパーニュ, ステンレスタンク, スパークリングワイン, スペイン, テイスティング, フランス, ボルドー, メルロ, ラベル, ワイナリー, 樽, 温度, 熟成, 生産者, 発酵, 白ワイン, 赤ワイン
ワインの作り方
− 用意するもの
・ブドウ
・容器
− 作り方
1. ブドウを容器に入れる。
2. 発酵が終わったら出来上がり。
(*ブドウを使って自家製ワインを作ることは酒税法違反です。ご注意下さい。)
私達人類の祖先が実っているブドウを食するために穫ってきて貯蔵し、数日後に食べようと思ったら
「ん? 底に液体が溜まっているぞ。 何だこれ? 試しに飲んでみよう!」
「なんだか美味しいぞ! いけるじゃん!!!」
と、思ったかどうかはわかりませんが、”ブドウを放って置いたら自然発酵して、新しい飲み物ができた。” こんな偶然にワイン誕生の起源はあるのかもしれません。
ワインというのは非常にシンプルな飲み物で、ブドウがあれば作ることが出来るお酒。
その誕生の起源は定かではありませんが、少なくとも紀元前5000年頃に記されたメソポタミア文学「ギルガメッシュ叙事詩」にはワインが登場していることを考えると、それ以前に既に存在していたことが想像できます。
ピラミッドの壁画に描かれているワインやイエス・キリストが「私の血」としたワインはいったいどんなワインだったのでしょう?
思いを馳せるときりがないけれど、ブドウさえあれば作ることの出来るこのシンプルな飲み物を、先人達は長い歴史の中で様々な工夫を凝らして進化させてきたのです。
では、今、私達が楽しんでいるワインはどのように作られているのでしょうか?
今回はワインの醸造についてです。
目次
ワインの醸造
赤ワイン、白ワイン、ロゼワイン、スパークリングワインなど、ワインにはいくつかの種類がありますが、ブドウをアルコール発酵させて作るという点ではどのワインも同じです。
どのようにアルコール発酵させるか、どのように熟成させるかによって、色や味わいの違いを加えることが出来るのです。
赤ワイン
赤ワインはどうして赤いのか、ご存知ですか?
「そんな、当たり前のこと.....」と思われた方、多分正解です。
黒ブドウを使っているからですね。
黒ブドウの果皮に含まれるアントシアニンの働きが赤色を生み出すのです。では、そのアントシアニンをどのように引き出すのか...
その工程が赤ワインと白ワインの大きな違いとなっています。
赤ワイン醸造の工程
*カッコ内は仏名
1 . 収穫(ヴァンダンジュ) |
2 . 除梗、破砕(エグラパージュ、フーラージュ) |
3 . アルコール発酵、醸し(フェルマンタシオン・アルコリック、マセラシオン) |
4 . 圧搾(プレシュラージュ) |
5 . マロラクティック発酵 (マロラクティック・フェルマンタシオン=M.L.F) |
6 . 熟成 (エルヴァージュ) |
7 . 滓引き(スーティラージュ) |
8 . 清澄、濾過(コラージュ、フィルトラージュ) |
9 . 瓶詰め(アンブティヤージュ) |
1 . 収穫 & 2.除梗、破砕(エグラパージュ、フーラージュ)
畑のブドウは手作業もしくは機械で収穫し、醸造所に運ばれ選果されます。
手作業で収穫する場合は収穫の際に出来るだけ痛んでいる果粒を除去し、醸造所でもさらに選果するという2段階を踏むことが多く、なぜならぶどうをより厳選することがワインの品質に直結するからです。
選果したぶどうは「除梗破砕機」にかけられ果梗を取り除き(除梗)、ブドウ果汁を出すために破砕を行います。この除梗という作業は全く行わない生産者もいれば、一部のみ行う生産者など様々で、どんなワインを作りたいかによって変わってきます。
3 . アルコール発酵、醸し(フェルマンタシオン・アルコリック、マセラシオン)]
ブドウの果皮、種子、除梗を行わなかった場合は果梗ごとタンクに移し、アルコール発酵を行います。この発酵は酵母の働きによって起こるわけですが、ブドウが持つ天然酵母だけで行う場合と人口酵母を添加する場合があります。
発酵が始まると二酸化炭素が発生し果汁の温度が上がってくるため、赤ワインのエッセンスを抽出するのに適温である26〜30℃くらいにキープし、また、ブドウの果皮や種子がタンクの上部に押し上げられてくる(=果帽)ので、液体の中に沈ませるための撹拌作業を行います。そうすることで、黒ブドウの果皮から「アントシアニン」が、種子からは「タンニン」がより抽出され、赤ワインとしての大切な要素が形成されていくのです。
この果皮や種子を果汁につけ込んでおくことを「醸し」といい、白ワインの醸造には無い工程なのです。
4 . 圧搾(プレシュラージュ)
アルコール発酵が終了したら果帽の下のワインをタンクから抜き出します。
抜き出したこのワインのことを「フリーラン・ワイン」といいます。
ワインを抜き出したあとにタンク内に残った果皮や種子などの固形物は圧搾機でプレスし、果汁を搾ります。この果汁にはエキス分が多く含まれて複雑な味わいがある反面、雑味もあるため、フリーラン・ワインにブレンドするかどうかは生産者によって異なります。
5 . マロラクティック発酵 (マロラクティック・フェルマンタシオン=M.L.F)
4までの工程で出来たワインはテイスティングすると酸っぱく感じます。
それはワイン中にリンゴ酸が多く存在しているからで、そのリンゴ酸を乳酸菌の働きによって乳酸に変化させることで酸味の和らいだまろやかな味わいへと変化していき、複雑性も増していきます。
これは、ワインを熟成させるために入れた木樽や空気中に存在する乳酸菌の働きによって自然に起こる現象ですが、必ずしも起こるとは限らない不安定なものなので、より安定したMLFを行うために市販の乳酸菌を加える場合もあります。
6 . 熟成 (エルヴァージュ)
発酵を終えたワインはタンクや木樽に移され、醸造所内で熟成させます。
フレッシュなワインを作りたい時はステンレスタンクで、風味豊かなより濃厚なワインを作りたい時は木樽で熟成させます。ワインの個性、ポテンシャルにあった熟成をさせることで、ワインは月日と共に安定していきます。
熟成期間は様々で生産者の判断によるところが多いですが、国によっては最低熟成期間が法律で定められているワインもあります。
例)イタリア
バローロ:3年以上。バローロ・リゼルヴァは5年以上
バルバレスコ:2年以上。バルバレスコ・リゼルヴァは4年以上。
ガッティナーラ:3年以上。ガッティナーラ・リゼルヴァは4年以上。
スペイン
クリアンサ:330リットル以下のオーク樽で熟成させ、赤ワインは樽熟、瓶熟合わせて24ヶ月以上。うち6ヶ月以上は樽熟成。
レセルヴァ:330リットル以下のオーク樽を使用して熟成させ、赤ワインは樽熟、瓶熟合わせて36ヶ月以上。うち12ヶ月は樽熟成。
7 . 滓引き(スーティラージュ)
発酵が終わったばかりのワインには酵母や果肉片などの滓が混ざっているため、ワインの上澄みを別の容器に移し、熟成中に沈んだ滓を取り除きます。この作業を熟成期間中に数回行います。
8 . 清澄、濾過(コラージュ、フィルトラージュ)
必要に応じて、清澄剤を使用してワインをクリアーにします。場合によっては、さらに濾過をして微生物や不純物を完全に取り除きますが、濾過をしすぎるとワインの成分も失ってしまうリスクもあるため、無濾過でワインを瓶詰めする生産者も少なくありません。
余談ですが、「カヌレ」というお菓子をご存じですか?
伝統的に使用されているワインの清澄剤の1つに卵白があるのですが、フランス・ボルドー地方の郷土菓子であるこのカヌレは、ボルドーワインの清澄剤として卵白ばかりが使用されるのでたくさんの卵黄が残り、その利用法として生まれたお菓子と言われています。
9 . 瓶詰め(アンブティヤージュ)
ワインを瓶詰めし、ラベルを貼って完成です。
ワインによっては瓶詰めした後も熟成(瓶内熟成)させて、味わいに成熟感と複雑性を持たせてから出荷されるものもあります。
赤ワイン、ついに完成しましたね。
この工程で特徴的なのは3の工程です。赤ワインが赤いのはこの工程があるからなのです。赤ワインがどうして赤いのか、おわかり頂けたでしょうか?
ちなみに、白ブドウをこの工程で醸造したものが、近年ブームとなっている「オレンジワイン」です。
ボージョレ・ヌーヴォーの醸造方法
そういえば、もう11月!
11月といえば、毎年話題にのぼる赤ワインがありますね。
そう! 11月第3木曜日に販売が解禁になるボージョレ・ヌーヴォー。
「ヌーヴォ」とは「新しいもの(英語=New)」を意味するフランス語で、ボージョレ地方でその年に収穫されたブドウ(ガメイ種)で作られた新酒がボージョレ・ヌーヴォーです。
秋の初めに畑で実っていたブドウが、たった2ヶ月余りでワインとなって日本で楽しめるってすごいと思いませんか?
先に述べたような方法で造っていたら、解禁日には間に合いません。
では、どうやって造っているのか?
それは超特急でブドウをワインに変身させる「マセラシオン・カルボニック法(炭酸ガス浸漬法)」という作り方で醸造しているのです。
収穫したブドウを除梗・破砕をせずに密閉タンクにどんどん入れていきます。
すると重みで下の方の果房が潰れ自然発酵がはじまり、タンク内に二酸化炭素が充満します。そのような無酸素状態になると果粒細胞内の酵素によってアルコールが生成され、赤色とフレッシュな味わいのエキス分が抽出できるのです。
この果汁を圧搾して、更にアルコール発酵をさせて完成です。
炭酸ガスの自然発生を待たずに、ガスをタンク内に注入する方法もありますが、いずれにせよ、炭酸ガスにブドウを漬け込むことで、赤い色素やボージョレ・ヌーヴォー特有のフレッシュな味わいをより早く抽出することが出来るのです。
白ワイン
では、白ワインはなぜ白いのか?
白ブドウを使っているから...
では、ないのです!
それは、赤ワインが果皮や種子と一緒にアルコール発酵を行うのに対して、白ワインはまず圧搾して果汁を抽出し、果汁のみを発酵させるからなのです。
白ワイン醸造の工程
*カッコ内は仏名
1 . 収穫(ヴァンダンジュ) |
2 . 除梗、破砕(エグラパージュ、フーラージュ) |
3 . 圧搾(プレシュラージュ) |
4 . デブルバージュ |
5. アルコール発酵(フェルマンタシオン・アルコリック) |
6. マロラクティック発酵 (マロラクティック・フェルマンタシオン=M.L.F) |
7. 熟成 (エルヴァージュ) |
8. 滓引き(スーティラージュ) |
9. 清澄、濾過(コラージュ、フィルトラージュ) |
10.瓶詰め(アンブティヤージュ) |
1~3までの工程の内容は赤ワインの醸造と同じですが、赤ワインではアルコール発酵の後に行っていた圧搾作業を白ワインでは発酵の前に行います。
4.デブルバージュ
圧搾して抽出された果汁には果皮や種子などの不純物が混ざっているので、果汁を静置して不純物を沈殿させ取り除く作業(デブルバージュ)を行います。
5.アルコール発酵
デブルバージュした果汁をアルコール発酵します。この時の発酵温度は赤ワインよりも低い10~20℃以内にキープされ、そうすることで白ワインのフレッシュさが失われることを防ぎます。
6.マロラクティック発酵
ほとんどの赤ワインがマロラクティック発酵を行うのに対して、白ワインでは行わない場合もあります。マロラクティック発酵を行わない場合はフレッシュでフルーティーな味わい、行った場合は酸味のまろやかな味わいとなり、生産者がどんなワインを作りたいかによって異なってきます。
7以降の工程は赤ワインと同じです。
白ワインは果汁のみを発酵させるというのがポイントです。なので、黒ブドウでもこの工程で醸造すれば白ワインが出来るのです。
まだ、ワインを学び始めて日が浅かった頃、日本の某ワイナリーを訪問した際にメルローで作った白ワインを頂いたことがあります。メルローは赤ワインを作る品種だと思っていたので、とてもびっくりしたのを覚えています。シャンパーニュでいうところの「ブラン・ド・ノワール(黒ブドウで作る白シャンパーニュ)」ですね。
いかがでしたでしょうか?
次回はロゼワイン、スパークリングワインについて触れてみたいと思います。
ワインを選ぶとき、飲むとき、語るとき、ちょっと思い出していただけたら嬉しいです。
楽しいワインライフをお過ごし下さい。
ライター紹介:新井田由佳
大手総合商社在職中にワインに魅了され、退職して渡仏。ブルゴーニュを中心にフランス、イタリアの数多くの生産者を訪問し見聞を広める。
知れば知るほど魅了されるワインの世界について、もっと知りたい!が現在進行形で継続中。
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