【ワインのある景色】ブドウ畑の一年に寄り添って【1月】
フランスの新年
新しい年を粛々と迎えるという風習のないフランスでは、元日こそ祝日ですが1月2日には通常通り大人達は仕事に向かい、「三が日はゆっくりと過ごすもの」と思っている日本人にとっては、あまりにも呆気ない新年の幕開けに拍子抜けしてしまいます。年が明けても街を彩り続けていたクリスマス飾りも1月6日のエピファニー(公現祭)が終わると片付けられ、使用済みのクリスマスツリーが回収場所に集まってきて、街も普段の景色に戻ります。
エピファニーとは東方の三博士が幼子イエス・キリストのもとを訪ね、誕生を祝い礼拝したことを記念したキリスト教の大切な日ですが、その起源よりも「ガレット・デ・ロワを食べる日」としての方が知られているかもしれません。ガレット・デ・ロワはアーモンドクリームの入ったパイのような焼き菓子で、その中にフェーヴと呼ばれる陶器の小さなおもちゃが隠されています。人数分に切り分けたガレットを食べて、フェーヴが当たった人には幸せが訪れるといわれ、ガレットについてきた紙の王冠をかぶり、「ロワ(王様)」、「レーヌ(女王様)」となることができます。大人も子供も一緒に盛り上がる年明けの伝統的な習慣で、このイベントが終わると子供達も新学期が始まります。
ブドウ畑では新しいシーズンに向けての剪定作業が続いていますが、ブドウが休眠している冬は時間に余裕が持てる時期でもあり、生産者達は情報交換をしたりプロモーションを行ったりと、繁忙期にはなかなかできない活動にも時間を費やします。春になってブドウが目覚めるまでのこの時期が、1年でいちばんゆったりと生産者達の時間が流れているような気がします。
ブルゴーニュの新年:サン・ヴァンサン・トゥルナント
そんな1月の最後の週末、ブルゴーニュでは「Saint-Vincent Tournante(サン・ヴァンサン・トゥルナント)」というワイン祭りが開催されます。1938年から続くこのお祭りは、ワインを生産しているブルゴーニュの村が毎年持ち回りで開催し、ホストとなる村のワインが試飲できます。
サン・ヴァンサンはブドウ栽培者の守護聖人。当時、生産者達がお互いの栽培や収穫、醸造をサポートし合い、道具なども共同で使用しながらワインを造っていたその連帯精神を讃えると同時に、昨シーズンの収穫への感謝と今年の豊作を祈り、ブルゴーニュの全てのワインを例外なく守るという主旨のもとに生まれたお祭りといわれています。
ホストとなる村にはサン・ヴァンサンの像が前年の村から受け継がれ、中世の衣装に身を包んだ生産者や関係者に守られながらパレードでお披露目され、訪問者は毎年変わるオリジナルのグラスと試飲券を購入し、生産者の蔵の前に設置された試飲ブースを巡ってワインを楽しみます。このお祭りの楽しいのは、普段訪問できない蔵を訪れることができること、一つの村のワインだけを飲むことで村の個性を感じることができること、そして何よりも村の装飾を見ることです。サン・ヴァンサン像を万全の体制で迎え、お祭りを盛り上げるために村一丸となって準備をしてきた飾りは、芸術的なものあり、シュールなものあり、手作り感あふれるオブジェが村のいたるところを飾り、目を楽しませてくれます。
ライター紹介:新井田 由佳(Yuka Niida)
・J.S.A.認定 ソムリエ
・La Confrerie des Hospitaliers de Pomerol ボルドー ポムロル騎士団称号
大手総合商社在職中にワインに魅了され、退職して渡仏。ブルゴーニュを中心にフランス、イタリアの数多くの生産者を訪問し見聞を広める。知れば知るほど魅了されるワインの世界について、もっと知りたい!が現在進行形で継続中。
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