ワインの醸造について②
前回は赤ワインと白ワインの醸造について触れました。
赤、白とくれば、次は。。。。。
ロゼ♡
目次
ロゼワインの醸造法
「Rose」という綴りの通り、美しいバラ色のワイン。
グラスに注げばパァ〜とその場が華やかになり、口元に運べば頬にほんのりロゼ色が反射して女性を美しく見せてくれるワイン。そして今やお花見のマスト・アイテムです。
ひと昔前まで日本市場で販売されているロゼワインは大半が甘口だったので、「ロゼ=甘口」という印象をお持ちの方もいらっしゃるかも知れません。でも実際は辛口も多く作られており、近年、世界的なロゼワインブームが巻き起こっています。ワイン大国フランスでは生産量の1/3を占めており、消費量に関しては白ワインを上回るほど。
見た目の美しさはもちろんのこと、赤と白両方の良さを兼ね揃えていて幅広いお料理と合わせられること、そして価格がお手頃とくれば惹かれてしまいますよね。
そんなステータス絶賛上昇中のロゼワインの醸造は一般的に「セニエ法」「直接圧搾法」「混醸法」「ブレンド法」の4つの方法があります。
セニエ法
赤ワインと発酵までは同じ工程で、ロゼの製法としては最も多く取り入れられています。
除梗、破砕した黒ブドウを果皮や種子も一緒にタンクに入れて色素を抽出し、果汁が程よくロゼ色になったところでタンクから果汁だけを抜き取って、その果汁だけで発酵を継続させて作ります。
「セニエ」とは中世ヨーロッパの医師が行っていた治療法の1つ、「瀉血」を意味するフランス語で、体内の老廃物を血液と一緒に引き抜くことで体力を回復させるという処置からきています。
このセニエ法はロゼワインを作る製法ですが、実はより濃厚な赤ワインを作るための製法でもあるのです。赤ワインの銘醸地ボルドーなどでは濃いワインを作るためにタンク内の果汁を少し抜いて果皮の比率を多くして醸造することがあり、この抜いた果汁を発酵させてロゼワインとしてリリースすることがあります。なので、このセニエ法で作られているロゼワインにはカジュアルなものからトップクラスのワインになるはずだったものまで幅広い味わいのものがあります。
直接圧搾法
セニエ法が赤ワインの醸造と途中まで一緒なのに対して、こちらは白ワインの醸造に似ています。黒ブドウを破砕したのち、ゆっくりと圧搾して絞ったロゼ色の果汁を発酵させる醸造法です。セニエ法よりもブドウの果皮や種子と接している時間が短いため、比較的色が淡くタンニンの少ない爽やかな味わいのロゼワインとなります。
混醸法
セニエ法と行程は同じですが、黒ブドウと白ブドウを一緒にタンクに入れて醸造します。この製法で作られているロゼワインは少なく、ドイツ・バーデン地方のロゼ「ロートリング」の伝統的な製法とされています。
ブレンド法
白ワインに少量の赤ワインをブレンドする方法です。スパークリングワインのロゼに用いられる製法で、ヨーロッパをはじめ、多くの国がスティルワイン(非発泡性ワイン)のロゼをこの製法で作ることは禁止してしています。
赤と白の中間色であるロゼ。。
赤ワインのようなベリー系がほんのりとありながらもタンニンは突出しておらず、白のようにフルーティーでフレッシュな味わいのロゼワインはお料理とのマリアージュの幅も広く、「迷った時はロゼ!」という選択もありだと思います。
スパークリングワイン
スパークリングワインというのは発泡性ワインの総称で、ワイン中に含まれるガスの量によって大きく「微発泡性ワイン」と「発泡性ワイン」の2種類に分類できます。
微発泡性ワインはペティヤン(フランス)、フリッツァンテ(イタリア)、パールヴァイン(ドイツ)、発泡性ワインはフランス・シャンパーニュ地方で作られるシャンパーニュをはじめ、クレマン、ヴァン・ムスー(共にフランス)、スプマンテ、プロ・セッコ(ともにイタリア)、ゼクト、シャウムヴァイン(共にドイツ)、カヴァ(スペイン)などがあります。
偶然が生んだスパークリングワイン
17世紀のフランス・シャンパーニュ地方。
冷涼なこの地方ではブドウの生育に時間がかかるため収穫も遅く、ワインを仕込んでも寒さのために発酵途中で酵母が眠ってしまうことが多くありました。その状態のワインを瓶詰めしていたため、春になって暖かくなると酵母が目覚めて瓶の中で発酵が再開し、栓をした瓶から抜け出せないガスがワインの中に溶け込こんでしまい、泡の出るワインとなってしまっていました。
当初、この泡は歓迎されるものではなく抑える方法が思案されていたようですが、やはりどうしても発泡してしまう。。。
そこで一役買ったのがシャンパーニュの父、僧侶ドン・ペリニヨンとその弟子達です。
どうせ発泡してしまうのであれば質の高いスパークリングワインを作ろうと試行錯誤し、現在のシャンパーニュの製法の基礎を確立していったのです。
スパークリングワインの起源には諸説ありますが、いずれにせよ、その誕生は図らずしも発泡が起こってしまうという事がきっかけとなっているのです。
現在のスパークリングワインは「トラディショナル方式(シャンパーニュ方式)」と、「シャルマ方式」「トランスファー方式」「リュラル方式」「炭酸ガス注入方式」という5つの製法で作られています。どの製法も白ワイン、赤ワインを醸造するところまでは同じですが、発泡を生み出す方法が異なっています。
トラディショナル方式(=シャンパーニュ方式)
Methode traditionnelle (= Methode champenoise) メトード・トラディショネル(=メトード・シャンプノワーズ)
先述の「ドン・ペリニオンとその弟子達」が基礎を築いた醸造方法です。
シャンパーニュは必ずこの製法で作らなければなりません。なので「シャンパーニュ方式」とも言われています。一次発酵でスティルワインが完成したところから見ていきましょう。
1 .アッサンブラージュ |
2 .瓶詰め(ティラージュ) |
3 . 瓶内二次発酵 |
4 . 瓶内熟成 |
5. 倒立、動瓶(シュール・ポワント、ルミアージュ) |
6. 滓抜き(デゴルジュマン) |
7. ドサージュ(=門出のリキュール(リキュール・デクスペディショ)) |
8. 打栓(ブシャージュ) |
1.アッサンブラージュ(Assemblage)
出来上がったスティルワインをブレンドして味を調えます。
例えばシャンパーニュの場合、主要品種はシャルドネ、ピノ・ノワール、ピノ・ムニエの3種なので、このブドウで作ったそれぞれのワインを様々な比率でブレンドをして「これだ!」という比率を決定するのです。この工程が先述のロゼワインの醸造に出てきたスパークリングワインに許されているブレンド法です。
2.瓶詰め(ティラージュ/Tirage)
ブレンドしたワインに二次発酵を促すための酵母と糖分を添加して瓶詰めし、ガスが抜け出すことの無いように王冠で打栓します。
3.瓶内二次発酵
瓶の中でアルコール発酵が起こり、逃げ場のない炭酸ガスがワインの中に溶け込みます。この工程がトラディショナル方式の一番のポイントです。
4.瓶内熟成
瓶内二次発酵が終了すると、役割を終えた酵母が滓となって沈殿していきます。シャンパーニュではノン・ヴィンテージの場合はこの状態で12ヶ月以上、ビンテージ・シャンパーニュは3年以上熟成させることが義務づけられています。
5.倒立、動瓶(ミズ・シュール・ポワント、ルミアージュ/Mise sur Pointe, Remuage)
沈殿した滓を取り除くために「ピュピトル」と呼ばれる滓下げ専用の台にボトルを下向きに倒立させ、時間をかけて徐々に瓶の角度を変えて滓を瓶口に集めていきます。とても手間と日数のかかる工程で、大量生産の場合やカジュアルなスパークリングワインの場合は機械化されています。
6.滓抜き(デゴルジュマン/Degorgement)
集めた滓を取り出すために、まず瓶口をマイナス25℃以下の溶液に浸して滓を凍らせます。そして栓を抜くと瓶内部の気圧によって凍った滓が弾き出されます。
7.ドサージュ(Dosage)
デゴルジュマン後に目減りをしてしまったワインを補充する目的と、スパークリングワインの糖度の調節をするために「門出のリキュール」と呼ばれる糖分をワインに溶かしたリキュールを添加します。ドサージュ前のワインは酵母が糖分をほとんど使ってしまっているために甘味がなく、このリキュールの量によってスパークリングワインの甘さ、辛さのスタイルが決まります。
例) シャンパーニュのスタイル
・ドゥー(Deux) :糖分50g以上/L
・ドゥミ・セック(Demi Sec):糖分32〜50g以上/L
・セック(Sec) :糖分17〜32g以上/L
・エクストラ・ドライ(Extra Dry):糖分12〜17g以上/L
・ブリュット(Brut):糖分12g以下/L
・エクストラ・ブリュット(Extra Brut):糖分0〜6g以下/L
糖分が3g以下、もしくはドサージュを全く行わなかったワインは「ブリュット・ナチュ−ル(Brut Nature)」「パ・ドゼ(Pas Doze)」「ドサージュ・ゼロ(Dosage Zero)」等となります。
8.打栓(ブシャージュ/Bouchage)
ドサージュが終了したスパークリングワインの瓶に打栓します。この時の栓は皆さんが目にするスパークリングワイン特有のワイヤー付きの栓です。フランス語ではコルク栓のことを「ブション」と言い、語源はそこから来ています。
このトラディショナル方式は時間と手間がかかりますが、瓶内でゆっくりと2次発酵をさせることで香りと味わいの複雑性が増し、きめの細かい泡が生まれます。
シャンパーニュ以外でもこのような製法で作られているスパークリングは多く、有名なところではスペインの「カヴァ」があります。「トラディショナル方式で作っている」ということは、時間と手間をかけて作られたスパークリングということが想像できます。
シャルマ方式
Methode charmat メトード・シャルマ
トラディショナル方式のように瓶内で二次発酵させるのではなく、大きな密閉タンク内で二次発酵をさせる製法です。コストを抑え、短期間で多くのスパークリングワインを生産することが可能です。カジュアルに楽しめるフレッシュフルーティーなスパークリングワインを作るのに適しています。大型タンクで仕込むため、トラディショナル方式に比べると若干ガス圧が弱くなります。
トランスファー方式
Methode Transfert メトード・トランスファー
瓶内二次発酵させたスパークリングワインを加圧式タンクに入れて冷却し、濾過してから新しい瓶に詰め替える製法です。トラディショナル方式で記載した5(倒立・動瓶)と6(滓抜き)の工程を簡略化した製法です。
リュラル方式
Methode Rurale メトード・リュラル
一次発酵中のワインを瓶詰めして、瓶内で発酵を継続させる製法です。
別名メトード・アンセストラル(Methode Ancestral)とも言います。ブドウの持つ糖分だけでガスを発生させるため柔らかな味わいのスパークリングワインとなりますが、アルコール度数は低くなる傾向があります。
炭酸ガス注入方式
瓶詰めしたスティルワインに人工的に炭酸ガスを注入する製法です。
手頃な価格帯のすっきりとしたスパークリングワインに多く用いられています。短時間で簡単にスパークリングワインを作ることができます。
このようにひと口にスパークリングワインといっても様々な種類があり、その製法によって味わいやガス圧も変わってきます。また、国によって異なるスパークリングワインの呼び名を心に留めておくと、ワインを選ぶときの世界が広がるかもしれないですね。
2回にわたって主要なワインの醸造について触れてきましたが、いかがでしたでしょうか?
ワインを選ぶとき、飲むとき、語るとき、ちょっと思い出していただけたら嬉しいです。
楽しいワインライフをお過ごし下さい。
ライター紹介:新井田由佳
大手総合商社在職中にワインに魅了され、退職して渡仏。ブルゴーニュを中心にフランス、イタリアの数多くの生産者を訪問し見聞を広める。
知れば知るほど魅了されるワインの世界について、もっと知りたい!が現在進行形で継続中。
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