「PP」「WA」の表示は要チェック! ワイン評論家ロバート・パーカー・Jr氏を知っておこう。
- 2021.10.20
- ちょっと知りたい、もっと知りたいワインの話
知らないワインが目の前にたくさん。さて、どの一本を選びましょう?
ラベルで選ぶ?
品種で選ぶ?
産地で選ぶ?
「あー、決められない。。。」と悩んだとき、もしPOPに「PP95」とか「WA95」などの文字を見つけたら手に取ってみて下さい。これ、市場でのワイン価格を左右してしまうほど大きな意味を持つ文字なのです。
今回はショップで見かけたら要チェック!「PP」「WA」の説明から入りたいと思います。
目次
「PP」「WA」って何だろう?
数多くいるワイン評論家の中で、最も権威があり影響力があると言われているのが「神の舌をもつ男」との異名を持つロバート・M・パーカー・Jr(Robert M. Paker,Jr)氏。「PP」というのはパーカーポイントの略で、彼が100点満点方式で採点したワインの得点を表し、「WA」は彼が創刊したワイン誌「ワイン・アドヴォケイト(Wine Advocate)」のテイスター達による採点を表しています。
著名な評論家が高得点をつけたワイン、「どんなワインなんだろう? 飲んでみようかな?」となりませんか? そう思うのは世界中のワインラヴァーも同じ。彼が高得点をつけたワインは一気に需要が高まると同時に価格が高騰し、手に入りにくいワインになってしまうのです。
ロバート・M・パーカー・Jr氏ってどんな人?
出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Robert_M._Parker_cropped.jpg
ワイン市場にそれほどまでに影響を及ぼすパーカー氏は、1947年アメリカ東部メリーランド州生まれ。22歳の時、留学している恋人に会うためにヨーロッパを旅行したのをきっかけにワインに目覚め、帰国後に仲間達と「ワイン・アドヴォケイト」創刊のきっかけとも言えるテイスティング会を結成します。(ちなみにその時会いに行った恋人というのは現在の奥様だそう。。。)
その後、目指していた弁護士の資格を取得し職を得たものの、ワインへの情熱が次第に大きくなると同時に、当時出版されていたワイン誌の批評に疑問を抱くようになり、1978年に現在の「ワイン・アドヴォケイト」の前身となるワイン誌を自ら創刊して、消費者に対して情報を発信し始めました。
彼が既存の情報誌に疑問を持ったのは、記事の内容に多かれ少なかれスポンサーの影響を感じた点。スポンサーに配慮して、正当な評価が消費者に届いていないと感じたのです。そこで、彼の雑誌ではスポンサーを募ることはせずに読者からの購読料と自らの持ち出しで出版費用を賄い、感じたままのコメントを消費者に届けたのでした。その姿勢が徐々に知られ、消費者からの信用を得るようになるとパーカー氏の知名度も上がっていき、評論家として職に専念するようになりました。
神の舌を持つ男
こうして自らの雑誌を創刊したパーカー氏。彼が権威ある評論家としての地位を確立できたのには、他にも理由があります。
それは、類まれなテイスティング能力の持ち主であるということ。
よく語られているのは、1982年ヴィンテージのボルドーワインのプリムール・テイスティングでの逸話です。プリムールというのは、まだ樽の中で熟成しているワインを売買する先物取引を指すのですが、今やグレートビンテージとして名高い1982年ワインの将来性をその時見抜いたのは、パーカー氏ただひとりだったと言われています。第一線で活躍している評論家達が否定的な見解を下す中で、唯一、正反対の評価を下すのは確固たる自信と勇気がなければできないこと。そして、まさにパーカー氏の評価通りに1982年のボルドーワインが伝説にも残るような素晴らしいワインへと変貌を遂げたことで、パーカー氏の優れたテイスティング能力が世界に認められ「神の舌を持つ男」との異名を持つきっかけとなったのでした。
パーカーポイント
パーカー氏が創刊した「ワイン・アドヴォケイト」のワインの評価は、他のワインガイドとは少し違っていました。それはワインのコメントだけではなく、満点を100として点数をつけるという方法を用いたところ。20点満点で評価をする方法はそれ以前にもあったようですが、より評価を細分化してそのワインがどのくらいのポテンシャルなのか、飲み頃はいつなのかを明確に記載することで、読者はワインのポテンシャルを一目瞭然に理解することができるようになったのです。
【評価方法】
ポイントの付け方にはルールがあります。
全てのワインは基本点として50点を持ち、残りの50点は以下の通り様々な観点から評価して加算されていきます。
全てのワインの持ち点、基本点 |
50点 |
色調などの外観 |
1〜5点 |
香り |
1〜15点 |
味わい |
1〜20点 |
熟成の可能性、将来性 |
1〜10点 |
合計 |
50〜100点 |
さらに合計点ごとにワインを定義して、ワインの持つポテンシャルをわかりやすくしています。
【100〜96点】Extraordinary:格別なワイン。努力してでも探して飲むのに値するワイン。
【95〜90点】Outstanding : 傑出した素晴らしいワイン。
【89〜80点】Above Average to Excellent : 並以上。優良なワインではある。
【79〜70点】Average : 並
【69〜60点】Below Average : 並以下
消費者の目線で評価することをモットーとしているワイン・アドヴォケイトのコメントには結構辛口な批評もあり、読んでいると「生産者はいい気持ちしないだろうなぁ」とちょっとハラハラするようなコメントに出くわすこともあります。
シンデレラワイン
最盛期には有名、無名を問わず年間10,000本以上ものワインをテイスティングしていたというパーカー氏。時にはほとんど知られていない生産者のワインが高く評価されることもあり、それが公表されるやいなや、あっという間にその名は世界に知れ渡り、引く手数多のオファーが来るようなワインへと駆け昇っていくこともしばしば。そのようなワインは「シンデレラワイン」と呼ばれているのですが、今や高級ワインの代名詞のようになっているワインが、実はパーカー氏が見出したシンデレラワインというのも少なくはありません。
以前、シンデレラワインと呼ばれている生産者を訪問した時、彼はその当時のことを「自分でもびっくりしたよ!知らないうちに有名になっていた!」とおっしゃっていました。「おかげで、このセラーもタンクも新しく出来たんだ」とも。。。
パーカリゼーション
パーカー氏の影響力が絶大なものとなると、生産者もパーカー氏を意識し始めます。今でこそワイン・アドヴォケイトには複数のテイスターが存在していますが、2000年頃まではパーカー氏がひとりで全てのワインのテイスティングを担っていました。
でも、ワインというのはそもそも嗜好品。彼が高い評価をつけるワインの傾向が見え始めると、コンサルタントを雇ったり、自分の意とは違いながらもパーカー好みのワインを作ろうとする生産者が現れ始めました。その気持ち、分からなくもないですよね? 高得点がつけば、セラーもタンクも新調できてしまうかもしれないのですもの。
パーカー氏の好むワインは果実味が濃厚で凝縮感のあるボリューミーな味わい。新樽でしっかり熟成させた、いわゆる「樽を感じる」ワインとされ、ぶどうの特徴やその土地の個性を反映したワインを作る以前に、パーカーポイントでの高評価を目指す生産者が増えてきたのです。この現象は「パーカリゼーション(パーカー化)」という言葉を生み出し、少しずつ問題視されるようになっていきました。
ワイン・アドヴォケイト売却とパーカー氏の引退
2012年、65歳の時にパーカー氏はワイン・アドヴォケイトをシンガポールの投資会社に売却します。取締役兼カリフォルニア担当のテイスターとして籍を残していましたが、2019年に退社と評論家としての活動を引退することを発表しました。それ以前から引退の噂は囁かれていましたが、やはりワイン業界には衝撃が走り、これはこの年のトップニュースだったと言っても過言ではありません。
歯に衣着せぬ評論は時に波風を大きく立てることもありましたが、フランスの二人の大統領から勲章を授与されたほか、イタリア大統領からも勲章を授与されているという評論家は彼以外にはおらず、その功績は絶大なものでした。パーカー氏の引退後、ワイン・アドヴォケイトはレストランガイドで有名なタイヤメーカー「ミシュラン」が買収し、彼の厳しい採点を目の当たりにしてきた後継者達が引き続き消費者目線でワインを評価し、WAポイントとして発信し支持されています。
参考にされることの多い評価サイト
影響力の大きいワイン・アドヴォケイト以外にも注目されているワインガイドがあります。「PP」「WA」だけでなく、こちらの表示も見かけたらチェックしてみて下さいね。
昔は紙媒体で雑誌として情報を発信していたワインガイドも、時代の流れでWEBのみの発信に切り替えたものも多く、中には会員にならなくても閲覧できるページもあります。機会があればぜひ検索して覗いてみて下さい。
WS:Wine Spectateur(ワイン・スペクテーター)
ワイン・アドヴォケイト(WA)のライバル誌。WAよりも1年早く創刊。
Vinous:ヴィノス
かつてパーカー氏の右腕としてWAで働いていたアントニオ・ガローニ氏が立ち上げたサイト。
AM:Allen Meadow (アラン・メドー)
ブルゴーニュとシャンパーニュを主とする評価サイト。
JR:Jancis Robinson(ジャンシス・ロビンソン)
日本でも人気の英国出身の女性評論家。英国王室のワインセラーアドバイザー。
JS;James Suckling(ジェームズ・サックリング)
ワイン・スペクテーターの元編集長
最後に。。。
ワインは嗜好品です。
タンニンのがっちりしたワインが好きな方もいれば、苦手な方もいます。濃厚な果実味が好きな方もいれば、優しい果実味を好む方もいらっしゃる。私が美味しいと思ったワインを必ずしも友人が美味しいと感じるとは限らない。
ここまで書いてきて何なのですが、ワインサイトの評価も同じです。評価が高いからと言って、万人が美味しいと感じるわけではありません。私も実際にパーカーポイントの高いカリフォルニアのシャルドネを飲んだときに、果実味爆弾のような濃厚さにノックダウンされたことがあります。私には強すぎました。もっと時間を経れば美味しく頂けたのかもしれませんが。「評価が高いから飲んでみようかな?」とあくまでもワイン選びの指標の1つとして頂けたらと思います。
いかがでしたか?
今回はワイン評論家ロバート・パーカー氏について触れてみました。
ワインを選ぶとき、飲むとき、語るとき、ちょっと思い出していただけたら嬉しいです。
楽しいワインライフをお過ごしください。
ライター紹介:新井田由佳
大手総合商社在職中にワインに魅了され、退職して渡仏。ブルゴーニュを中心にフランス、イタリアの数多くの生産者を訪問し見聞を広める。
知れば知るほど魅了されるワインの世界について、もっと知りたい!が現在進行形で継続中。
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