【ワインのある景色】ブドウ畑の一年に寄り添って【4月】

4月。花の蕾が膨らみ始めると「Le printemps est arrivé(ル プラントン エタリヴェ)」「Le printemps est là (ル プラントン エ ラ)」と、「春が来たね」という言葉をフランスの人々はよく口にします。寂しかった品揃えがどんどん充実していくマルシェでもそんな会話があちらこちらで飛び交い、顔見知りの店主との会話を楽しみながら食材を買い求める人々でにぎわいます。
Petit pois(プティ・ポワ)
店主のお勧めを聞いていると、食べたいものがありすぎて悩むこともしばしば。ホワイトアスパラを筆頭に様々な春野菜が並ぶ中、悩みながらも私が何度もリピートしてしまうものの1つがグリンピース。4~6月くらいまでが旬でしょうか。フランス語では「Petit pois(プティ・ポワ)」というなんとも可愛いらしい名前で、鮮やかなグリーンの鞘が山積みになって売られています。それをたっぷりと買って帰り、青々とした香りに包まれながら鞘を剥き、たっぷりと塩茹でしてお肉に添えたり、パスタやキッシュに入れたりと楽しみ方は色々ですが、一番のお気に入りはスープで茹でてベーコンを加え、お皿に盛ったらポーチドエッグを真ん中にポトン。トロトロの黄身を絡ませながら頂く簡単料理。そう!「サ」で始まり「ヤ」で終わる某ファミリーレストランの定番メニューにもなっているアレです。お供は断然白ワイン。なかなか主役になれないグリンピースの晴れ舞台を白ワインが引き立ててくれる、爽やかな春の風を感じるマリアージュ。大好きな1品です。
油断禁物なフランスの4月
マルシェに春が訪れても、油断禁物なのがフランスの4月。「4月は一糸も脱いではダメ。5月は好きなようにどうぞ(En avril, ne te découvre pas d’un fil ; en mai, fais ce qu’il te plaît!)」「暖かくても薄着になるのは5月まで待ちなさい」ということわざがフランスにはあり、その言葉の通り4月は気温の変動が激しく、ブドウ畑はその脅威に毎年さらされています。穏やかな日々が続いてブドウがスクスクと成長し始めた頃に突然寒波がやってきて、気温がマイナスまで下がるような年も少なくはなく、そうなるとブドウは大きな影響を受けます。
昨今の気候変動で芽吹きが早まる傾向にあるブドウ木。芽吹いた後に霜が降りると若芽が凍りつき、成長が止まって枯死してしまうのです。それはそのままブドウの品質の低下と収穫量の減少に繋がっていきます。近年でいえば2021年が猛打撃を受けました。フランスだけではなく、ヨーロッパの主要ワイン生産国のほとんどが霜害の影響を受け、ワインの生産量が歴史的に低い年となってしまったのです。生産者にとっては大変な思いをした年でした。
霜害からブドウを守る
自然の猛威には太刀打ちできませんが、生産者はただ傍観しているわけではありません。寒波の予報が出ると霜害からブドウを守るための対策を行います。ロウソクや燃料の入った一斗缶のようなものを畑に並べて昼夜を問わずに火を焚き続けたり、送風機やヘリコプターを使って上部の暖かい空気を撹拌して下方に流し、霜が降りるのを防ぎます。散水して、若芽が凍る前に氷で包んでしまう方法もあります。点々と炎が灯る畑やブドウ木が氷で包まれている景色は、不謹慎ながらとても幻想的。これは緊張感漂う生産者たちの前では言えない一言です。
新しいシーズンがまたいつものように始まっていきます。先人達も同じように迎えたであろう、そして未来の生産者達も同じように迎えていくであろう、ワイン造りの新しいシーズンの始まりです。
ライター紹介:新井田 由佳(Yuka Niida)
・J.S.A.認定 ソムリエ
・La Confrerie des Hospitaliers de Pomerol ボルドー ポムロル騎士団称号
大手総合商社在職中にワインに魅了され、退職して渡仏。ブルゴーニュを中心にフランス、イタリアの数多くの生産者を訪問し見聞を広める。知れば知るほど魅了されるワインの世界について、もっと知りたい!が現在進行形で継続中。

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