ワインボキャブラ天国【第70回】「パン」 英:bread 仏:pain
連載企画『Firadis ワインボキャブラ天国』は、ワインを表現する言葉をアルファベットのaから順にひとつずつピックアップし、その表現を使用するワインの例などをご紹介していくコーナー。
このコラムを読み続けていれば、あなたのワイン表現は一歩一歩豊かになっていく・・・はずです!
取り上げる語彙の順番はフランス語表記でのアルファベット順、ひとつの言葉を日本語、英語、フランス語で紹介し、簡単に読み方もカタカナで付けておきますね。
英仏語まで必要ないよー、という方も、いつかワイン産地・生産者を訪れた時に役に立つかもしれませんから参考までに!!
ということで今回ご紹介する言葉は・・・
「パン」
英:bread
仏:pain (男性名詞:発音は「パン」)
朝、街のおいしいパン屋さんの前を通る時にぷーんと漂ってくる、ふんわりとしたイーストと焼きたてパンの香り・・・とても心地よいですよね。なんだかほっとする感じ。
だからか、パンの香りを感じるワインは第一印象だけで上質で優しく、丁寧に作られているように感じられます。
ワインに感じるパンの香りは、おもに発酵に由来する香りと言っても良いと思います。
パンもワインも同じ発酵食品、原料が酵母によって変化することで新しい風味を獲得するというところが共通しています。
ワインの場合は発酵工程の後に酵母粕を濾過して取り除き、透き通った液体にしてから瓶詰めをすることが多いですが、場合によってはこの酵母由来の風味を敢えて残す・生かす、といった製法もあります。
まずひとつは、シンプルに「無濾過」の製法です。
酵母を濾過せず残したまま瓶詰めをすることでワイン自体に酵母の甘い香りを付着させ、それが香り・味わい要素のひとつになります。
無濾過のワインは静置しておくと瓶底に白っぽい酵母粕の粒子が沈殿し、ワインを注ぐ際にそれが全体に混ざり少し濁った感じに。
日本の清酒にも濾過をしない「にごり酒」というものがあり、独特の風味を持っているのでイメージしやすいのでは。
そしてもう一つ、瓶詰めの前段階までワインに酵母を浸漬しておくことで、適度に酵母の風味を加える製法です。
『SurLie(シュール・リー)=直訳すると“澱の上”』と呼ばれる製法ですが、ブドウ果汁をステンレスタンクや木樽に入れて酵母を加えて発酵させてワインを仕込み、発酵の完了後も活動を終えた酵母粕を取り除かず、そのままワインに漬け込んだ状態で一定期間熟成させます。
瓶詰めの際にはフィルターで濾過をし、酵母粕を取り除くので濁りはありませんが、ワイン自体にはイーストの香りが加わっています。
シャンパーニュやブルゴーニュ地方では熟成後の香りに複雑性をもたらす要素の一つとしてこの製法を取り入れる生産者が多いほか、ロワール地方西部の「ミュスカデ」ではワインの商品名に「ミュスカデ・セーヴル・エ・メーヌ・“シュール・リー”」と入れているなど、ある意味この製法がスタンダードにまでなっています。
ミュスカデはブドウ品種自体の香り・味わいが非常にストレートでシンプルなので、酵母の風味をプラスすることで味わいに厚み・深みを持たせています。
そしてこの酵母由来の風味こそがワインから「パン」的な印象を感じさせる要因になっています。
皆さんもご存じの通りパンの種類にはいろいろありますから、当然パンを使ったワイン表現も種類が非常に豊富。
ここをさらに深堀していくと、パンの種類(ブリオッシュ、クロワッサン・・・)、焼き加減など表現の仕方が多種多様に存在しています。
次回第71回は、イースト由来で付着したパンのイメージが、木樽の使用や長期熟成により更に発展していくことをご紹介したいと思います。
ということで次回のキーワードは『pain grille(パン・グリエ)=トースト』。
今回の続き、という形でお届けいたしますね。
今日、あなたの表現するワインの世界が少し広がりました!
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