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「ワイン樽のひみつ」

「ワイン樽のひみつ」

ワインで「樽熟成~ヶ月」というのをよく見るけど、「樽」って何でしょう??


これは先日お客様から、メールでリクエストを戴いたテーマ。
その時は気楽に「お題をありがとうございました、書きます!」と言ったものの、
「待てよ、これはものすごく奥が深くて大変なテーマじゃないか・・・」と焦りまして、
ここ1週間程、色んなワイン本をひっくり返したり、ネットで調べたり、を続けておりました。
ある程度のことは分かっていたつもりでしたが、知れば知るほどに面白いテーマです。

そもそも「樽」って何だ?

というところからスタートしたいと思います。

「木樽」皆さんも見たことがあるかと思います。
「黒ひげ危機一髪」のゲームでも使われているあの形、
縦長で平たい木の板を張り合わせて、鉄の箍(たが)で上下の端と真ん中を締めつけて固定したものです。

最近は、立ち飲みワインバーのテーブル代わりとしても使われているので、
実物を目にする機会も多いのではないでしょうか。
あのテーブルに使われているのは、実際にワイナリーで使用し終わった樽の払い下げ。
大手のワイナリーでは毎年何本も使用済の樽が出るので、廃棄してしまう前にもらって再利用するわけです。

「樽」の歴史


さて、まずは「樽」の歴史から。
「樽」の起源はおよそ2000年前、初めて作ったのは、ケルト人と言われています。
フランス西部の森で遊牧生活をしていたケルト民族が、
金属の箍で木の板を張り合わせた丸い樽を作ったのがその始まりだったとか。
その後ローマ人がフランスに侵入して来た際に、樽を貴重品やワイン、脂・穀物の貯蔵用に使い始めました。 
この段階では、樽は純粋に「モノを貯蔵したり、輸送したりするだけの容器」として存在していたわけです。

歴史的に、「樽」の材料に使われる木材は「オーク」。
日本語では「樫(かし)」の木と訳されますが、実際に使用されているのは「楢(ぶな)」の木です。
どちらもブナ科の植物ですので「オーク」と総称されているため、樫と誤認されることが多いのでしょう。
(*現在は、稀ながらアカシアの木材を使ったワイン樽と言うのも存在します。
  オークよりも堅く、気品のあるフレーヴァーがワインに付くと言われ、
  白ワインの熟成用に使われるそうです・・・この辺りの樽の「機能」については、シリーズ後半でまた。)

「オーク」が樽の材料として使われている理由には、この木ならではの特徴・利便性があるためです。
それは「頑丈で、水気にさらされても腐りにくい」。また、「アルコールにも強い」。

オーク材は実際、伝統的に木造船の材料としても使われていた木材。
大航海時代には、ヨーロッパ中に生えていたオークを使って、
木造の巨大戦艦まで作られていたくらいの頑丈さと耐水性、だったそうです。

 

「容器」から、樽の「機能」に。

では、樽が「貯蔵・輸送用の頑丈な容器」から
「プラスアルファの機能を持った容器」になったのは、いつのことだったのでしょうか?

時は16世紀末頃のヨーロッパ。
ここで初めて、樽にお酒を貯蔵したときに「ある効果」が得られることが発見されます。
当時、フランスのコニャック地方で造られたブランデーをアメリカ大陸に輸出した際の出来事。
その時代はまだ、蒸留酒は透明な液体が当たり前と考えられていました。
ところが、たまたま積み下ろしを忘れてフランスに持ち帰ってしまったブランデーを開けてみると、
無色のはずの液体に茶色がかった色が着き、そして特別の香りと味わいが加わっていたのです

ここで初めて、オーク材の樽で酒を貯蔵すると、
木に由来する香り要素(バニラの香りを想起させる“ヴァニリン”や、
同様に木材由来のポリフェノールなどを含有したタンニン質が溶出して風味に影響を与える、
ということが認識されたのでした。

そしてここから、ワインを樽で熟成させることで、
ブドウ原料そのものに由来するアロマ&フレーヴァーから一歩先に進んだ、
「熟成」に由来する複雑な香りや旨味を作ることができるように発展していくわけです・・・。


10年ほど前になりますが、一度アメリカ・カリフォルニアの樽メーカーに見学に行きました。
そこで見た作り方は、2000年前にケルト人が樽を初めて造ったころから、
実はほとんど変わっていないのだとか・・・。
見ているだけでとにかく面白く、長時間見ていてもまったく飽きなかった記憶があります。

 

樽の焼き加減について

 

「樽の焼き加減」の部分についてお話をしたいと思います。

実はこの「焼き加減」が、その樽で保存・熟成されるワインに与えるフレーヴァーに

大きな違いを与える要因なのです。

樽を「焼く」とは?  

樽を組むために切り出されたオーク材の板は、片端に箍(たが)を嵌めて焼きを入れていきます。

樽の空洞部分真ん中にストーブを置いて、内側からすべての板を均等に火で炙るかたちです。

その時に、焼きの時間によって「ライト」「ミディアム」「ヘヴィ」等の段階で焼き加減を分けます。

そして、例えれば行きつけのレストランでお肉の焼き加減を細かくお願いするイメージで、

樽のユーザーであるワイナリーの要望によって焼き度合いを細かく調整していくという対応もしています。

造りにこだわるトップワイナリーほど、自分たちの目指すワインのイメージに近づけるため、

樽メーカーに焼き加減を細かくオーダーするわけです。

木材の産地を選び、樽の生産者を選び、焼きの程度を選び・・・・

樽熟成にも、思い描くワインに辿り着くまでの「分岐点」がいくつも存在するのです。

樽熟成の前提として、まず「どういう熟成をワインに施すのか」の設計からスタートします。

ワインの出来上がりの最終形を思い描き、それにはどういう熟成をさせるべきか、を考える作業。

フレーヴァーがしっかりとつく「新樽」をどのくらい使うのか、

あまり樽香の強烈なインパクトを付けないよう、敢えて使い古しの樽だけを使うのか。

経験と想像力だけで道を選び抜いて行く作業ですね。

だから、「新樽」を使っていればそれで良いのだ、と言う考え方はちょっと的外れになります。

新樽比率の高さを自慢げに謳っているワインを時々見かけますが、

出来上がりのワインがお化粧臭く木の香りしかしないものになっていたら、何の意味もないですよね。

だって、本のワインには、それぞれに最もふさわしい熟成方法があるんですから。

「焼いた」樽に入れることで、ワインはどう変わる?

焼き加減

焼き加減を「ライト」にすると、バニラ系の樽香はあまり付かず、

軽く繊細なオークフレーヴァーと、樽由来のタンニンが程よく抽出され、ワインの「支柱」になります。

(これは僕の勝手な表現で、ワイン会の共通言語ではありません)

例えば、元々のブドウ品種の特性やワインの造りが繊細なブルゴーニュのピノ・ノワールなどでは、

焼きの軽い樽や敢えて使い古しの樽を使って、見えないけど頑健な支柱を立てるようなイメージでしょうか。

一方で焼きを「へヴィ」にすれば、まさにトーストにも似た香りがワインに与えられます。

焼き加減がヘヴィな樽で熟成されたワインには強い香りが付着する分、

ワインが若い段階で飲もうとすると非常にはっきりとした樽香が前面に主張してくるので、

まだフレッシュさの残る果実味と調和がとれておらず、樽の強い香りばかりが印象に残ってしまいます。

これが時間をかけて少しずつ樽の香りと調和し、良い熟成の完成形としては

赤ワインだとチョコレートやコーヒー、白ワインだとバタートーストのような香りに代表される「熟成香」に

まとまって行くのです。

この「心地よい熟成香」または「お化粧し過ぎのどぎつい香り」は、

ワインをある程度の頻度で飲んでいる方なら、直観的に感じられるものだと思います。

鼻に付くバニラの香りがむせかえるようだったら、そのワインはちょっと「厚化粧」かもしれませんね。

「オークチップ」とは???

 

オークチップ、直訳すれば“オークのかけら”です。
前々回のコラムで書いた通り、ワインの熟成に使用する樽は頑丈で水に強い「ブナの木=オーク」です。
オークチップはその名の通り、オークの大木から樽材を切り出すときに出た木の破片・木屑です。

では、その木片を何にどうやって使うんでしょうか。
非常にシンプルです。ワインの発酵過程や熟成過程でその木片をワインに直接放り込んで、
ワインに直接、木の香りとフレーヴァーを付けるのです。

前回までにお話しした熟成用の「樽」は、樹齢100年以上の貴重なオーク材を職人がハンドメイドで造ります。
そのため安いもので5万円程度、フレンチオークなら1本あたり10万円以上もする非常に高価なもの。
オーダーメイドで木材の産地や焼き加減を調整すると、更に価格は高くなります。
この樽が1本225リットル程の容量ですから、750mlのワインフルボトルとしたら丁度300本分。
樽1本のコストが10万円なら、ワイン1本あたり333円分のコストが必要になる勘定です。

樽の香りがする安いワイン、本当に樽熟成させているの・・・?

そこで次は、ワインの話に戻りましょう。
お店で1本300円台~1000円しないような価格帯で売っているワイン。
買って飲んでみると、木の香り・フレーヴァーが非常に強く付いているものが結構あります。
チリやアルゼンチン、南アフリカやオーストラリアの低価格ワインがその代表です。
特に目立つのがシャルドネ種を使用した白ワインです。
スクリューキャップを開けた瞬間、むせかえるような木の香りを感じたこと、ありませんか?

でもちょっとおかしいですよね。
仮に1本980円のワインだとしましょうか。
お店がワインを販売してある程度の利益を得るのは当然として、
お酒には酒税がかかり、輸入すれば運賃・関税がかかり(特恵で無税の場合もありますが)、
当然ガラス瓶やキャップ、ラベル代などの容器代もかかり、そして勿論、ブドウのコストと生産者の利益!
その中で、樽熟成のコストが1本に数百円がかかっていたとしたら、あまりにもその比重が高くないでしょうか。
しかも全国各地のコンビニやスーパーで売っているような大量生産のワイン、
そんなに沢山の木樽が、ハンドメイド品で確保できるでしょうか??

そうです、だから実際の樽で熟成せずに、オークの木片をワインに入れて香りと味を付着させるわけです。
オークチップは、ただの木屑ですから非常に安く手に入ります。
(自宅でのお酒の醸造が許可されている国では、家庭用の小規模な仕込み用に簡単に手に入ります)


本物の樽と同様に焼き加減を調整し、付着させるフレーヴァーの強弱も変えられます。
直接発酵タンクや貯蔵タンクに放り込むので、樽熟成だと数か月~数年を要する工程が数週間に短縮できます。
僕が昔訪れた豪州の超巨大ワイナリーでは、プレミアムレンジのワインにオークチップを使用していました。
女性用のストッキングにこのチップを沢山詰めて、ワインの中に放り込むのを見て絶句しました 笑

↓ こんな風に、オーク片をワインに漬け込んで風味を加えます。


でも、なぜそうまでして樽熟成の風味が必要なのでしょうか。
オークチップを使う生産者は「低価格のワインでも樽熟成のニュアンスを堪能してもらいたい」というよりは、
残念ながらただ単純に大量生産した原料ブドウのポテンシャルの低さを覆い隠すために使っているとしか思えません。


果実味や酸の弱いワインに人工的に糖や酸を加えたりすることで不自然なバランスになったワインを
強烈な木のフレーヴァーで包み込み、その不自然さをカバーしているのだと思います。
こんなワインを飲んで「樽の香りがするワインは嫌い」となったしまったとしたら、本当に悲しいことです。

フランスではAOCワイン(産地名を名乗る原産地統制呼称認定ワイン)には
オークチップを使用することが禁止されていますが、テーブルワインや地酒ではその限りではありません。
現在、本当に低価格のワインには、糖分や酸、果てはタンニンまで人工的に添加されています。
そして以前お話しした「アラビアガム」のようにふくよかさを与える添加物まであれば、味覚設計は自由自在。
現代のワインは、低価格化と引き換えに人工的に作られる清涼飲料水と同じになってしまったのかもしれません。


*今回のコラムを書くのに当たり、下記の文献・ネット記事等を参考に致しました。
・日本醸造協会雑誌 第77巻 第3号 P140-P144 「洋樽について」 早川 清
・「ワイン物語 豊潤な味と香りの世界史(上)」 ヒュー・ジョンソン著 小林幸夫訳 日本放送協会出版
・Wikipedia “Oak(Wine)https://en.wikipedia.org/wiki/Oak)  ←画像が非常に参考になります
・株式会社フィラディスHP ニュースレター 「ワイン樽4つのメーカーを徹底レポート!」 
 弊社代表 石田大八朗執筆 http://www.firadis.co.jp/newsletter/201601

 

CTA-IMAGE ワイン通販Firadis WINE CLUBは、全国のレストランやワインショップを顧客とするワイン専門商社株式会社フィラディスによるワイン直販ショップです。 これまで日本国内10,000件を超える飲食店様・販売店様にワインをお届けして参りました。 主なお取引先は洋風専門料理業態のお店様で、フランス料理店2,000店以上、イタリア料理店約1,800店と、ワインを数多く取り扱うお店様からの強い信頼を誇っています。 ミシュラン3つ星・2つ星を獲得されているレストラン様のなんと70%以上がフィラディスからのワイン仕入れご実績があり、その品質の高さはプロフェッショナルソムリエからもお墨付きを戴いています。 是非、プロ品質のワインをご自宅でお手軽にお楽しみください!
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