ワインのアルコール度数について
- 2020.10.16
- ちょっと知りたい、もっと知りたいワインの話
- アメリカ, カベルネ・ソーヴィニヨン, カリフォルニア, グルナッシュ, サンジョヴェーゼ, シャルドネ, シラー, ソーヴィニヨン・ブラン, ピノ・グリージョ, ピノ・ノワール, フランス, ブルゴーニュ, ボルドー, ラベル, 樽, 熟成, 生産者, 発酵, 白ワイン, 赤ワイン
目次
アルコール発酵の化学式
「C6H12O6→2C2H5OH+2CO2」 なんだか難しそうな化学式。
化学が苦手な方は、これを見ただけでこの先読み進めるのを止めたくなってしまうかもしれませんね。
でも、ちょっと待って。。。。。 これはワインにとってはとても大切な化学式。 覚える必要はないけれど,知っていると通な気分になれる(かもしれない)化学式なのです。
ワインは簡単に言うとブドウ果汁が酵母の働きによって発酵してできるアルコール飲料なわけですが、 このメカニズム「ブドウ糖 C6H12O6→(酵母が働いて)エチルアルコール 2C2H5OH + 二酸化炭素 2CO2 に分かれる」という、 ワイン誕生のファーストステップ「アルコール発酵」を示している化学式なのです。
この発酵のメカニズムを解明したのはフランスの自然学者「ルイ・パストゥール」ですが、 それをこの化学式に示したのは化学者でもあり物理学者のジョセフ・ルイ・ゲイ=リュサック。
彼にちなんでアルコール度数のことを「ゲイ=リュサック度数」と言う国も少なくないらしいです。
ワインのアルコール度数について
ちょっと前置きが長くなりましたが、今回は「ワインのアルコール度数」について。 皆さんはワインのアルコール度数がどのくらいかご存知ですか?
厚生省のガイドラインには、様々な酒類のアルコール度数の目安が示されています。
それによるとワインの目安は12%。 ビールは5%、清酒15%、焼酎35%、ウイスキー・ブランデー43%としていることを考えると、 ワインはあまりアルコール度数の高いお酒ではないことがわかります。
とは言っても、ワインにも様々な種類があり、アルコール度数も一律ではありません。
ワインのラベル、もしくは裏ラベルにはアルコール度数が必ず記載されているので、ワインを買う時、飲む時にチェックしてみて下さい。 12%以下のものもあれば、それ以上のワインもありますよ。
そして、そのアルコール度数から、今、飲もうとしている、買おうとしているワインの味わいの濃さがおおよそイメージできるのです。
一般的にはアルコール度数が高いほどしっかりとした、いわゆる「フルボディ」なワイン、 低いほど軽やかな「ライトボディ」なワインといえるでしょう。
もちろん例外もありますが、アルコール度数はワインを選ぶときの指標の一つになるのです。 そして、これまた一般的には白ワインよりも赤ワインの方がアルコール度数が高いものが多いです。
「ワインはちょっと苦手」「ワインは渋くて。。。」と思われている方はアルコール度数の低い白ワインを口にしてみて下さい。
「あらっ?飲みやすいじゃない。。。」と思われたら、それは無限に広がるワインの世界への扉を開けたも同然です。
ではワインのアルコール度数はどのように決まるのでしょうか?
アルコール発酵
ここで思い出して頂きたいのが、冒頭の化学式。
そう! この化学式が示している「アルコール発酵」が鍵を握っているのです。
収穫したブドウの、白ワインなら果汁を、赤ワインなら果房や果粒を発酵タンクに移し、 そこに酵母が加わる事によってぶどう果汁中の糖分が分解され、アルコールと二酸化炭素に変化してワインが生まれるのですが、 まず、このアルコール発酵の度合いによってもアルコール度数が変わってきます。
先程「白ワインよりも赤ワインの方がアルコール度数が高いものが多い」と述べましたが、 それは白ワインが糖分を残して途中で発酵をストップさせてしまうものが多いのに対して、 赤ワインは糖分が完全にアルコールに変化するまで発酵させるからなのです。
糖分がたくさんアルコールに変化した赤ワインの方がアルコール度数が高くなるという訳です。
白ワインのほうはアルコールに変化しなかった糖分があるため、その分アルコール度数は低く、 かつ、残った糖分はそのまま「甘味」としてワインに残るため「白ワインは飲みやすい」と感じられる理由の1つとなります。
次に、この発酵時に使用する果汁の糖度によってもアルコール度数は変わってきます。
糖分が高いほどアルコール度数の高いワインが、逆に糖分が低ければ度数の低いワインが生まれるのです。
ぶどう果汁の糖度の違いにはいくつかの要因があります。
糖度の違い
品種による違い
現在、ワイン用ぶどう品種の数は数1000種類にも及ぶと言われており、品種が違えば糖度も変わってきます。
皆さんが口にする食用ぶどうを考えて頂ければわかりやすいと思います。 甘いのもあれば、酸っぱいのもありますよね。それと同じです。
ぶどうの「熟成度」による違い
天候に恵まれてブドウが良く熟した年と、成熟が難しかった年では糖度は違ってきます。
なので、同じ作り手の同じワインでもヴィンテージよってアルコール度数は変わってきます。
また、ぶどうの熟成は収穫するタイミングでも変わってきますので、アルコール度数の高いワインを作るために収穫を遅らせて、ぶどうの糖度が上がるのをじっくりと忍耐強く待つケースもあります。
「産地」による違い
ブドウの糖度にはその土地の気候や日照時間が大きく影響します。
太陽が燦々と降り注ぐ産地と冷涼な産地では、同じぶどう品種でも糖度が全く異なり、それはそのままアルコール度数に反映します。
例えば、日照量が多く温暖な気候のカリフォルニアのシャルドネと、日照量が少なめで冷涼なブルゴーニュのシャルドネでは カリフォルニアの方が果汁が凝縮して糖度は高くなり、アルコールの高いワインが生まれます。
一方、ブルゴーニュの気候ではカリフォルニアほど果汁は凝縮しないので糖度も低くなります。
誤解してはいけないのは、ここで言う果汁の凝縮、アルコール度数の高い・低いはカリフォルニアとブルゴーニュの比較であって、 ワインの良し悪しではないということ。
カリフォルニア・シャルドネは太陽の光をたっぷりと浴びてグラマラスな果実味が育つ一方で、酸は控えめになっていきます。
イメージとしては白桃のコンポートやパイナップル、、、でしょうか。 ブルゴーニュ・シャルドネの果実味はもう少しシャープで、そしてカリフォルニアには無い切れの良い酸があります。
白桃というよりは、リンゴや柑橘類、、、 これは、それぞれの土地が生み出すシャルドネの個性なのです。
このような条件が色々と組み合わさってぶどうの糖度が決まってくるので、ワインのアルコール度数も必然的に幅がでてくるのです。
ワイン種類別アルコール度数
*参考文献 WINE FOLLY
5 ~ 6.5% | モスカートダスティ |
7 ~ 8% | ドイツのリースリング |
10.5 ~ 12% | アメリカ、オーストリア、オーストラリアのリースリング全般 |
11.5 ~ 12.5% | ランブルスコ(スパークリングレッド/ロゼ) |
12 ~ 13% | ピノ・グリージョ全般 |
12.5 ~ 13% | ボジョレー全般 ソーヴィニヨン・ブラン全般 |
13% ~ 14% | ピノ・ノワール、ボルドー赤 全般 |
13.5% ~ 15% | マルベック |
13 ~ 14.5% | シャルドネ全般 |
13.5 ~14.5% | カベルネ・ソーヴィニヨン、サンジョヴェーゼ、フレンチシラー |
14 ~ 15% | シラーズとアメリカンシラー |
14.5% | ソーテルヌ(甘い白いデザートワイン) |
14 ~ 15.5% | ジンファンデル全般 |
14 ~ 15% | グルナッシュ全般 |
15% | マスカット(甘いデザートワイン) |
15.9% | ジンファンデル/アメリカ(ロンバウアー・ジンファンデル/ロンバウアー) /アメリカ (ソノマ・ヴァレー モンテ・ロッソ ジンファンデル/ランチョ・ザバコ) |
16% | シラーズ/アメリカ(モリードゥーカー) |
17 ~ 21% | ポート、マデイラ、シェリー、その他の強化デザートワイン |
アルコール度数の今昔
1990年代、それまでに比べてアルコール度数を高くし、しっかりと樽熟させたリッチでパワフルなワインがアメリカを中心に世界的に流行し、 評論家達もそんなワインを高く評価し後押しをしていました。
暖かい産地では出来る限り熟成させてから収穫したぶどうでワインを作り、 ぶどうの糖度に限界のある冷涼な産地では補糖(国によって許可されていない産地もある)をして、アルコール度数をあげたりする生産者もいました。
私の住んでいたフランスでは、アメリカの顧客のオーダーに応えて、別仕込みをしている生産者もいました。
「僕は好きじゃないんだけどね。。。」と苦笑いをしながら。
正直なところ、私もあまり好きではありませんでした。ブームにのれなかった。。。
最初のインパクトはガツンと強く、「何?何?これ。。。」と惹かれますが、飲んでいるうちに何となく疲れてくる。
そんな気がしました。 現在はそのブームも去り、アルコール度数も樽熟も過度なワインは少なくなっていると思います。
一方で、近年様々な影響を及ぼしている地球温暖化。 それはワインのアルコール度数にも大きく影響しています。
温暖化による激しい暑さはブドウの熟成の速度を早めます。 そして、ぶどうの糖度が上がるというメリットの一方で、酸が失われるというデメリットをもたらしています。
また、ぶどうの糖度が上がることでアルコール度数の高いワインが生まれやすくなっているのです。
ブルゴーニュのように冷涼な産地では魅力的な酸を失わないように、温暖な産地ではぶどうが過熟しすぎることの無いように、 生産者達はぶどうの糖度と酸のバランスを慎重に見計らいながら収穫の時期を決定しており、その時期は年々早まってきています。
それと同時に、今までブドウ栽培が難しいと言われていた土地でもブドウが育ち、ワイン作りが行われるようになってきています。
また、これから先の温暖化を見据えて、より高地にブドウ畑を開拓しワイン作りにチャレンジする生産者も増えてきました。
これらの地域では、ブドウの糖度が上がりすぎるという事がないため、アルコール度数の低いワインの生産が可能なのです。
10年後、20年後には世界のワイン産地マップはだいぶ変わっているかもしれませんね。
アルコール度数について色々な観点から見てきましたが、いかがでしたか?
次にワインを選ぶとき、飲むとき、語るとき、ちょっと思い出していただけたら嬉しいです。
楽しいワインライフをお過ごし下さい。
ライター紹介:新井田由佳
大手総合商社在職中にワインに魅了され、退職して渡仏。ブルゴーニュを中心にフランス、イタリアの数多くの生産者を訪問し見聞を広める。
知れば知るほど魅了されるワインの世界について、もっと知りたい!が現在進行形で継続中。
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