魅惑の極甘口 デザートワイン
- 2021.03.05
- ちょっと知りたい、もっと知りたいワインの話
- アメリカ, イタリア, グラ, ジュラ, ス, スペイン, セミヨン, ソーヴィニヨン・ブラン, フランス, ボルドー, マリアージュ, ラベル 樽, 価格, 保管, 熟成, 生産者, 発酵, 白ワイン, 香り

トカイの中心地にあるワインの神バッカスの像
彼もフワ〜と身体の力が抜けているのでしょうか。
彼もフワ〜
ひとくち口に含んだだけで、フワ〜と身体の力が抜けてしまうような甘美な味わいのデザートワイン。普段はあまり甘い物を召し上がらない方でも、デザートワインは好きという方もいるほど、人を虜にしてしまう魅惑の極甘口ワイン。
今回は人々を魅了して止まないデザートワインについて触れてみたいと思います。
目次
デザートワインてどんなワイン?
デザートワインの定義は、はっきりと決まっている産地もあればそうでない産地もあり、一概には言えません。一般的にはその名の通り、デザートのように甘いワインをデザートワインと呼んでいます。産地や製法は様々、極甘口という共通点はありながらその味わいも様々で、通常のワインを醸造する以上の手間と時間をかけて造られています。代表的なワインを順に見ていきましょう。
貴腐ワイン
貴腐(ボトリティス・シネレア/Botrytis Cinerea)菌というカビが付着した「貴腐ブドウ」から造られる琥珀色をした極甘口の白ワイン。「カビ」というと聞こえが悪いですが、一般的な白ワインに使用されているぶどう品種セミヨンやリースリングなどにこの貴腐菌が付着すると、ブドウから水分が蒸発して糖度が高くなると同時に、貴腐特有の芳香を持った干しぶどうのような状態の貴腐ブドウとなります。このブドウから造られる蜜のような貴腐ワインはデザートワインの最高峰 と言っても過言ではありません。
しかしながらこの貴腐ブドウ、そう簡単にできるわけではないのです。そもそもこの貴腐菌は元を正せば花や果実に大きなダメージを与える「灰色カビ病」を引き起こす菌。本来、植物にとっては好まざる菌なのですが、特定の条件が揃った時にだけ貴腐ブドウを生み出すのです。
貴腐ブドウが育つ条件
トカイは街全体が霧がかっていました。
- — ブドウが成熟していること
- — 日中は晴れて乾燥し、夜間は湿度が高くなること
- — 9月頃から収穫までの間は朝霧が頻繁に発生し、気温、
湿度ともに菌の生育に適していた状態であること - — 上記のような状態が1ヶ月近く続くこと
樹上のブドウが完熟しても、菌が付着して貴腐ブドウとなるのをじっと待つ。これはとても忍耐力の必要なことです。待ったからといって必ずしも健全な貴腐ブドウが出来るとも限らず、生産者にしてみればある意味「賭け」でもあります。自然環境に頼るしかない条件なので必然的に産地も限られ、貴腐菌の付着する量も年によって異なるため、ブドウの収穫量は不安定でワインの生産本数も年によって大きく異なります。生産者によっては納得のいく貴腐ブドウが収穫できなかった年は、ワインの生産を断念してしまうところもあります。
手間のかかる生産方法
貴腐ブドウが生育してもまだまだ苦労は続きます。まずは収穫。ブドウが均等に貴腐化するとは限らず、一房一房、貴腐の状態を確認しながら収穫をしていかなければなりません。場合によってはひとつの房の中でも貴腐化の進んでいる果粒だけを収穫し、後日、その残りの部分を収穫することもあります。樹に果房が残っている間は毎日畑に足を運び、収穫のタイミングが訪れたブドウをこまめに収穫していきます。
収穫したブドウは果汁を搾るためにプレス機にかけられるのですが、水分の抜けた糖度の高いブドウの果汁は粘着性があり搾汁に時間がかかります。こうして得られた果汁は極僅か。この希少な果汁の発酵は糖度が高いため進度が遅く、また上手く発酵しないこともあるため、注意深く見守らなければなりません。このように貴腐ワインは非常に手間をかけて造られるワインなのです。
世界三大貴腐ワイン
日本でも造られている貴腐ワインですが、世界的に有名な産地としてはフランスのボルドー地方、ハンガリーのトカイ地方、ドイツのモーゼル地方やライン地方があげられ、この3つの産地で造られている貴腐ワインは「世界三大貴腐ワイン」 と呼ばれています。
— ソーテルヌ(Sauternes、フランス・ボルドー地方)
— トロッケンベーレンアウスレーゼ(Trockenbeerenauslese、ドイツ・モーゼル地方、ライン地方)
— トカイ(Tokaji、ハンガリー・トカイ地方)
ソーテルヌ(Sauternes)
貴腐ワインの中で最も有名なのがこのソーテルヌ。フランス・ボルドー地方にあるソーテルヌ地区とその周辺の5つの村で、セミヨンを主体にソーヴィニヨン・ブランやミュスカデルなどをブレンドして造られています。粘性のある口当たりはとても濃厚で、蜂蜜のような味わいの中にオレンジやアプリコット、バニラやナッツのようなニュアンスが溶け込んだとてもエレガントなワインです。その中でも最高峰とされているソーテルヌ「シャトー・ディケム(Chateau d’Yquem)」 は1本の樹からグラス一杯分のワインしか取れないといわれているほど希少なワインで、その飲み頃は100年近く続くと評されています。
トロッケンベーレンアウスレーゼ(Trockenbeerenauslese)
ドイツのワイン法では原料となるブドウ果汁の糖度によって格付けをするシステムがあり、最も糖度の高いランクが「トロッケンベーレンアウスレーゼ」です。ブドウ品種や産地を問うことなく規定の糖度があれば名乗ることができますが、多くのブドウが貴腐化しなければこの糖度まで高くならないため、市場で見かけるトロッケンベーレンアウスレーゼは一般的には貴腐ワインと思っていても問題ないでしょう(高い糖度が特徴のオルテガ種などでは貴腐化しなくてもトロッケンベーレンアウスレーゼとなることがあります)。
トカイ (Tokaji)
貴腐ワイン発祥の地とされているハンガリーのトカイ地方。17世紀にオスマン帝国の侵略によってブドウの収穫が遅れ、多くの生産者がワインの醸造を諦める中、諦めきれなかった者が萎びてしまったブドウを収穫してワインを造ったところ、蜜のように甘いワインが出来上がった、というのが貴腐ワインの誕生秘話とされています。その芳醇な香りの甘美な味わいは、フランス国王ルイ14世が「これぞ王のワインにして、ワインの王なり」 と絶賛したとの逸話があるほど。その当時から変わらない丘陵地帯に広がるブドウ畑の景観と地下に広がるワイン貯蔵庫は2002年に世界遺産として登録されました。辛口のワインも生産されている産地ですが、世界的にはトカイ=貴腐ワインのイメージが強いです。
ブドウ品種はフルミントを主体に、ハールシュレベルーやサルガ・ムシュコタイ(イエローマスカット)などがブレンドされているものあります。
トカイ・アスー (Tokaji Aszu)
ベースとなる白ワインに貴腐ブドウの果粒を漬け込んだり、ペーストを加えたりして造られるワイン。トカイワインというと一般的にはこのワインをいいます。以前は貴腐ブドウを収穫する背負い籠「プットニョス(puttonyos)」を糖度の単位とし、ベースの白ワイン136Lに対してこの籠で何杯の貴腐ブドウをブレンドしたかを3〜6段階のプットニョス(1杯=1プットニョス)で表し、「トカイ・アスー 3プットニョス」の様にラベルに記載していましたが、2013年の規準改定により、現在は1Lあたりの残糖度が120g以上、アルコール度数9%、樽熟成を18ヶ月させたワインがトカイ・アスーと規定されています。
トカイ・エッセンシア (Tokaji Eszencia)
収穫した貴腐ブドウをプレス機に入れて、ブドウ自体の重さで自然と流れ出た果汁(フリーランジュース)だけを使用して造られるワイン。1haの畑から1L程度のワインしか出来ないと言われています。果汁の糖度が高すぎるため発酵に数年かかり、アルコール度数はあまり上がりません。残糖度は450g/L、アルコール度数1.2〜8%。
アイスワイン
樹上で凍ったブドウを収穫して造るワインです。糖分を含む果汁が凍った場合、純水の部分から先に凍っていくため糖分が分離し濃縮されます。凍ったブドウをプレス機にかけると濃縮した部分から先に溶け出してくるので、その濃縮果汁だけを発酵させます。凍らせたペットボトルのジュースを飲むと、色のない凍った水分だけが最後に残るのを体験したことはありませんか?糖分を含んだ部分が先に溶けるので、美味しい部分だけ飲んでしまっているのですね、イメージはそれです。
「アイスワイン」という名前の通り、ブドウが凍るような冷涼地でしか造ることが出来ず、カナダ、ドイツ、オーストリアなどが有名な産地としてあげられ、中でもカナダは全体の40%近くを生産しており「アイスワインといえばカナダ」と思い浮かべる方も多いと思います。
アイスワインを造るためには、気温が氷点下になって樹上で完熟しているブドウが完全に凍結するのをじっと待たなければなりません。一般的なブドウの収穫は実りの秋9月から10月ですが、アイスワイン用のブドウの収穫は真冬の12月から2月頃。その間、鳥や獣による食害や害虫による被害、天候不良による病気などで収穫量が減ってしまうことも多く、生産者は常に気をつけていなければなりません。そして氷点下8℃以下になったら、陽が昇る前の夜間から早朝にかけての極寒の中で手作業で凍ったブドウを収穫し、ただちにセラーに運んで凍ったブドウから濃縮した果汁の部分だけを抽出して発酵させます。
」
抽出する果汁はほんの僅かで一房からスプーン1杯程度といわれ、出来上がったワインは非常に希少で高価なワインとなります。濃密な口当たりの中にブドウ本来のピュアな果実味と甘さ、酸味も感じられる味わいは、貴腐ワインよりもさっぱりとした印象があります。
現在では収穫したブドウを人工的に凍らせて造る「クリオ・エクストラクション製法」を使用して様々な国でこのようなワインを造っており、自然凍結のワインよりも手頃な価格で手に入れることができますが、この場合、アイスワインと名乗ることを禁じていたり、製法の記載を義務づけている産地もあります。
遅詰みワイン(レイトハーヴェスト)
時季を遅らせて収穫したブドウで造るワイン。通常の収穫よりも1〜2ヶ月ほどブドウを樹上に残すことで水分が蒸発して果汁が濃縮し、より糖度の高いブドウが収穫できます。このブドウを使ってワインを造ると糖度もアルコール度数も高いワインとなります。
ドイツ、フランス(アルザス)が代表的な産地ですが、イタリア、スペイン、アメリカ(ニューヨーク、ワシントン)、チリ、ニュージーランドなど様々な国で生産されています。
ストローワイン
こちらはレチョートを乾燥させる棚です。
季節外れの写真なので、空っぽですが。。
季節外れの写真なので、空っぽですが。。
ストローワインは陰干しをして乾燥させたブドウから造るワインで、干しぶどうワインや陰干しワインとも呼ばれます。昔は収穫したブドウを藁の上に広げて乾燥させたため、この名がついています。フランス・ジュラ地方のヴァン・ド.パイユ(Vin de Paille)、イタリアのヴィン・サント(Vin Santo)、レチョート(Recioto)、パッシート(Passito)などが有名です。ストローワイン特有のほんのりと感じる干しぶどうのニュアンスとナッツやカラメルような濃くのある味わいが特徴です。
デザートワインの楽しみ方
極甘口のデザートワインを楽しむ時は冷蔵庫やワインクーラーなどで冷やして楽しみましょう。適温は4〜10℃くらい。冷やすと蜜のような口当たりにキレが加わり、至福の味わいとなります。
食事の終盤にチーズやデザートと一緒に、もしくはデザートの代わりに楽しむのが王道です。チーズでしたら定番の組合せ、ブルーチーズとのマリアージュを是非試してみて下さい。独特の香りのする塩味の効いたピリッと刺激的な味わいととろけるような甘味とのバランスが、なんともいえない口福をもたらしてくれます。
デザートという名前から食後のイメージがありますが、食前、食中にも楽しめます。アペリティフに頂けばフッと肩の力が抜けて、食事が始まるまでのひとときをリラックスして過ごせます。フォアグラとの相性も抜群なので、前菜がフォアグラを使ったお料理の場合、アペリティフから前菜までをデザートワインで楽しむことも出来ます。
糖分の多いデザートワインは開栓しても数週間以上保管することが出来るので、急いで飲みきる必要はありません。一日の終わりのリラックスタイムにほんの一口楽しむのも良いでしょう。シガーとの相性も良いとされていますので、お好きな方は是非試してみて下さい。
今回はデザートワインについて触れてみましたが、いかがでしたでしょうか?
魅惑の極甘口を造るには手間と時間が非常にかかること、そしてその希少性をお分かりいただけたのではないかと思います。
ワインを選ぶとき、飲むとき、語るとき、ちょっと思い出していただけたら嬉しいです。
楽しいワインライフをお過ごしください。
ライター紹介:新井田由佳
大手総合商社在職中にワインに魅了され、退職して渡仏。ブルゴーニュを中心にフランス、イタリアの数多くの生産者を訪問し見聞を広める。
知れば知るほど魅了されるワインの世界について、もっと知りたい!が現在進行形で継続中。

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