ワインボキャブラ天国【第91回】「ヴィロードのように滑らかな」 英:velvety 仏:veloute
連載企画『Firadis ワインボキャブラ天国』は、ワインを表現する言葉をアルファベットのaから順にひとつずつピックアップし、その表現を使用するワインの例などをご紹介していくコーナー。
このコラムを読み続けていれば、あなたのワイン表現は一歩一歩豊かになっていく・・・はずです!
取り上げる語彙の順番はフランス語表記でのアルファベット順、ひとつの言葉を日本語、英語、フランス語で紹介し、簡単に読み方もカタカナで付けておきますね。
英仏語まで必要ないよー、という方も、いつかワイン産地・生産者を訪れた時に役に立つかもしれませんから参考までに!!
ということで今回ご紹介する言葉は・・・
「ヴィロードのように滑らかな」
英:velvety
仏:veloute (最後のeに右上がりアクセント/形容詞 発音は「ヴェルーテ」)
今回ご紹介するワイン表現ボキャブラリーは『ヴィロードのように滑らかな』。同義の表現としては「シルキー」というのもありますね。
文字通りワインの口当たり=テクスチュアの滑らかさを表現するときの比喩として非常に良く出てくる言葉です。ワイン通をディスる人が「カッコつけて“ヴィロードのような~”、とか言うんでしょ?」的に使われたりもしますね。こんなことを書いているとなんだかちょっと悔しくなってきましたが、官能的に絡みつきながら喉の奥まで滑り落ちていくような感触は、確かにヴィロード生地を撫でた時の感触に似ています。これに代わる、しかもワインにふさわしい表現ってなかなか無いと思います。だからワインを語らない人たちの意見は取り敢えず忘れまして、先に進みましょう。
では毎回恒例冒頭の豆知識コーナー。「ヴィロード」は絹などを原料に表面に毛羽(けば)・輪奈(わな)を作った織物。元々はポルトガル語で「veludo=ヴェルード」、日本には16世紀、戦国時代には伝わっていたそうです。その時代日本では「天鵞絨(てんがじゅう)」と呼ばれていたそうですよ。
今回は色々と調べたのですがあまりネタがありませんでしたので、このくらいで・・・。
さて、ヴィロードの滑らかさを感じさせるような食感は簡単に言えば「タンニンのきめ細やかさ」によるものです。
タンニンはブドウの果皮に含まれていた渋み成分で、口に含んだ時に舌の横側から引き締めるような「収斂(しゅうれん)性」を持っています。タンニンは実は様々な成分の総称で、例えば緑茶にも含まれる「カテキン」もタンニン分の一つです。タンニン成分は白ワインで0.05~0.3g/L、赤ワインで1~4g/Lが含まれています。赤ワインには時に白の800倍ものタンニン分が含まれているという事です。だから、赤ワインは白よりも渋みを感じるんですね。
ワインができたての段階ではタンニンは細かい粒の状態で含まれており、舌触りにざらつきを感じさせ、締め付ける収斂性も非常に強いです。その後、ワインがある程度の時間静置されている=熟成すると、同じ成分どうしで手を繋いでくっつき始める。いわゆる「重合」という現象です。ゆっくりと時間をかけて、自分の仲間と手を繋ぎつつ、いらなくなった部分(余った手)を落としていく、という動きが続きます。
但しこれにはワインが静置されていることが重要。継続的に振動があるような場所では成分の重合が上手く進みません。
こうして重合が繰り返されることで、タンニン分一つ一つの塊が大きくなるため、それまでの細かくざらついたタッチが無くなっていきます。そしてヴィロードのように滑らかで柔らかい口当たりを獲得していく、と言う訳です。赤ワインのあの官能的な滑らか食感が生まれる理由、お分かりいただけましたか??
それでは今回はこのへんで。
今日、あなたの表現するワインの世界が少し広がりました!
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