【ワインのある景色】ブドウ畑の一年に寄り添って【9月】
このコラムではブドウ畑と生産者の1年に寄り添いながら、ワインのある様々な景色をお伝えしていければと思っています。
目次
いよいよ収穫
「Panier!(パニエ~!)」
「Oui ! (はーい!)」
「Moi, aussi!(私も!)」
「Oui, J’arrive! (OK!今、行くよ!)」
9月。いよいよ収穫の時期がやってきました。まだ日の出前の薄暗い中、眠い目をこすりながら生産者のところに行くと、集まってる、集まってる!ご近所さんやら遠方から来た人、学生に社会人に御隠居さん。老若男女入り混じった「収穫隊」。1年ぶりの再会で話に花を咲かせている常連さんもいれば、初めての参加で少し緊張の面持ちの人も。さぁ、いよいよ収穫の開始です。ワゴン車やトラックに分乗して、いざ出発!
ブドウの収穫方法は「機械摘み」と「手摘み」がありますが、私の住んでいたブルゴーニュでは、ごく一部を除いて手摘みすることが法律で決められています。畑に着くと、一人一人にハサミと収穫したブドウを入れていくケースが渡され、担当するブドウの木の列が割り振られます。一房一房丁寧かつ素早く収穫し、果房の中に傷んだ果粒があれば取り除きます。ケースがいっぱいになった時に発するのが冒頭の言葉、「Panier!(パニエ~!)」。パニエはフランス語で「籠」を意味し、籠を背負ったポーター役のメンバーがブドウの回収に来てくれて、その背負い籠にケースのブドウを移し入れて再び収穫を続けます。畑のあちらこちらから聞こえる「パニエ~」と呼ぶ声。いつもは静かな畑が一気に活気づきます。
収穫時の楽しみ
少し疲れが出始める頃、「カスクルート」と呼ばれる軽食が畑に届きます。パンにチーズにハム、ジャムやヌテラなどのスプレッド、コーヒーやジュース、そしてワイン。好きなものをパンに挟んだり塗ったりして、食べて飲んで一休み。英気を養ったら、ランチになるまでもうひと頑張りです。ランチはドメーヌ(=ワイナリー)に戻って、料理担当のスタッフが腕によりを掛けて作ってくれたランチを頂きます。このランチ、実は非常に重要。なぜなら、あのドメーヌのランチが美味しいとか、あそこは美味しくないとか、必ず話題となるからです。やはり美味しいランチやワインが提供されるドメーヌには人が集まります。収穫隊の人員を安定して確保するために、ランチが重要な役割を果たしているのです。
Paullet(ポレ)
こんな毎日が10日から2週間くらい続くと、そろそろ終わりが見えてきます。最終日の午後の収穫にはドメーヌの庭や近くに咲く草花をたくさん持って畑に向かい、乗ってきた車両を飾り付けます。いよいよ最後の畑。ずっとしゃがみっぱなしで行う収穫作業は重労働で、この頃になると膝も腰も限界に近づき、ヘトヘト。「Fini~!(終了~!)」の掛け声と共に上がる歓声。草花で飾った車両に乗ってクラクションを鳴らし続けながら、賑やかに帰路につきます。
ドメーヌに戻ると収穫隊は一旦解散し、シャワーを浴びて、夜にまた集合。今年の収穫が無事に終了した事と収穫隊への感謝を込めてPaullet(ポレ)というパーティーがドメーヌで開かれます。たくさんのご馳走とワインをみんなで楽しみ、夜遅くまで歌ったり踊ったりのお祭り騒ぎ。生産者に取って1年で一番大切な作業の最終日はこうして締めくくられます。今年のワインが素晴らしいものとなることを願いながら、ポレはお開きとなるのでした。
ライター紹介:新井田 由佳(Yuka Niida)
・J.S.A.認定 ソムリエ
・La Confrerie des Hospitaliers de Pomerol ボルドー ポムロル騎士団称号
大手総合商社在職中にワインに魅了され、退職して渡仏。ブルゴーニュを中心にフランス、イタリアの数多くの生産者を訪問し見聞を広める。知れば知るほど魅了されるワインの世界について、もっと知りたい!が現在進行形で継続中。
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