ワインボキャブラ天国【第89回】「バニラ」英:vanilla 仏:vanille
連載企画『Firadis ワインボキャブラ天国』は、ワインを表現する言葉をアルファベットのaから順にひとつずつピックアップし、その表現を使用するワインの例などをご紹介していくコーナー。
このコラムを読み続けていれば、あなたのワイン表現は一歩一歩豊かになっていく・・・はずです!
取り上げる語彙の順番はフランス語表記でのアルファベット順、ひとつの言葉を日本語、英語、フランス語で紹介し、簡単に読み方もカタカナで付けておきますね。
英仏語まで必要ないよー、という方も、いつかワイン産地・生産者を訪れた時に役に立つかもしれませんから参考までに!!
ということで今回ご紹介する言葉は・・・
「バニラ」
英:vanilla
仏:vanille (女性名詞 発音は「ヴァニッル」)
今回ご紹介するワイン表現ボキャブラリーは『バニラ』。ワインの紹介記事、テイスティングコメントを読んでいると結構な頻度で出てくるワードなので、目にしたことのある方は多いと思います。今回はバニラの香りがどんなワインに、どんな由来で発生するのか、についてご紹介していきますね。
さて、まずは最近このコーナーで恒例となりました「豆知識コーナー」からいってみましょう。『バニラ』は日本語名にすると『香子蘭』。ラン科の植物で原産はメキシコや周辺の中南米諸国のようです。参考までに、これがバニラの花の画像です。
あの独特の香りのもととなるのはその種子、それを発酵・乾燥させた「バニラ・ビーンズ」から甘い香りが生まれます。かつて中南米では、タバコやカカオ食品の香味付けにバニラを使っており、それがスペインの植民地時代にヨーロッパに伝えられたものだそうです。そして現代の技術でバニラ・ビーンズの成分を抽出し、溶剤に溶かしたのがバニラ・エッセンスやバニラ・オイル。アイスクリームやお菓子などの風味付けに使われています。うーん、今回は、あまり驚くようなネタは無かったですね、残念。
このバニラの独特の香りとなっている成分がその名も分かり易く「バニリン」。ワインを熟成させるオークの生木に非常に多く含まれている成分で、オークを木材として乾燥させ、同時に樽内部に香味付けのための焼き入れ(文末★参照ください)をした際にその成分はさらに増加します。つまり、ワインから感じるバニラの香りは、主に樽熟成に由来したもの。そしてその香りが樽熟成に由来するということは、バニラ香のあるワインは香りが付着したばかりもの、ということ。バニラの香りを直球で感じたら、それは「樽熟成の後瓶詰めしてからそれほど時間が経過していないワイン」です。
このバニラの香りは熟成の時間を経るにつれて、他の香り要素と複合してトーストやバター、コーヒーやチョコレートなどの香りに変化していきます。それらが見つかったら、そのワインはある程度の時間が経っている、ということです。
更に・・・最近の研究ではブドウの果皮や種子、茎などにも香り成分「バニリン」が含まれていることが分かってきました。樽を使っていないワインにもバニラのニュアンスは微かに存在する、それはワインと樽熟成の相性が良いということの裏付けにもなりそうです。
ただ、いくら甘いバニラ香りが良い香りでも、あまり樽の香りばかりするワインは考え物。グラスに鼻を近づけた瞬間にむせかえるような木の香りだけがする「厚化粧なワイン」に出会ったことのある方も多いと思います。ワインでいちばん大切なのはあくまでも香味のバランスであって、強さではありません。ブドウ本来の香りに自信がないからと言って、樽香を強引に付けてしまうのはごまかしでしかないですよね。皆さんがワインをテイスティングしてバニラの香りを感じたら、そのワインの樽香は適度で心地よいかどうか、を是非考えてみてくださいね。
それでは今回はこのへんで。
今日、あなたの表現するワインの世界が少し広がりました!
★:オーク樽の焼き入れについては、以前こちらのコラムでご紹介しました。よろしければ併せて読んでみてください!
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