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【ワインと美術:短編】ボタニカル・アートとは何か。

【ワインと美術:短編】ボタニカル・アートとは何か。

科学と芸術のコラボレーション

ボタニカル・アートとは何か。現在、新宿のSOMPO美術館で開催されている「おいしいボタニカル・アート〜食を彩る植物のものがたり〜」という展覧会ではこのように説明されていた。ボタニカル・アートとは科学と芸術のコラボレーションである、と。

ボタニカル・アートとは直訳すれば植物を描いたアートということになるが、それだけでは要件を満たさない。あくまで科学的に正しく、植物たちを捉えようとしてきた記録なのである。

植物は古代から重要な食物であり、あるいは傷や病を癒す薬草であり、人々の生活に必要不可欠なものであった。ボタニカル・アート、つまり植物を忠実に絵として記録しようとしたものも古代から存在するが、それは身近な植物をもっと知りたい、もっと利用したいという好奇心によるものであっただろう。そしてそこには美術の要素、つまり美しさを捉えようとする側面もあった。植物はあくまで儚い命をもつ生き物であり、その一瞬の美しさを記録するために、ただ忠実に描くだけでなく美しく描こうとしたのだ。

この古代から続くボタニカル・アートは科学と芸術それぞれの発展に伴って進化していく。絵画技術や印刷技術の向上、科学的見識の深化。ボタニカル・アートはますます発展しながらもあくまで人類の好奇心を原動力として描かれ続けてきた。写真技術が発達しても、特定の部分を恣意的に強調して描いたり、写真と異なり深い焦点深度でどこまでも鮮明に捉えたりできるボタニカル・アートは現代まで活用されている。

交易の発展

 

 

パンクラース・ベッサ『・オブ・アレキサンドリア』1807~35年
個人蔵

上記の絵は、ご覧の通りブドウのボタニカル・アートである。品種名はマスカット・オブ・アレキサンドリア、いわゆるマスカットである。左下に記載された「ヴィティス・ヴィニフィラ」はワイン用ブドウを意味する学名であり、このヴィティス・ヴィニフィラの中に、シャルドネやカベルネ・ソーヴィニヨン、ピノ・ノワールといったワインに用いられる品種の多くが属する。・オブ・アレキサンドリアは食用にもワイン用にも用いられ、実際フィラディスはこの品種を用いた白ワインを輸入し、販売している。

ボタニカル・アートとは何か。ボタニカル・アートは好奇心が原動力となったが、その好奇心の範囲も時代と共に広がっていった。航海技術が発達し、人々は自らが育った土地の外へと目を向けていくのである。海外との交易、さらに侵略や植民地化という負の側面も内包しつつも、人々は外の世界で今まで見たことがない植物に出逢い、それらを手に入れただけでなく絵画として記録し、その植物をもっと知りたいという好奇心を満たした。

ボタニカル・アートの多様さは交易の多様さを体現している。例えば美しい花、美味しい野菜、果実、お茶、コーヒー、チョコレート、砂糖、ハーブやスパイス。この展覧会は英国キュー王立植物園の協力のもとでこれら非常に多様な植物の絵画を楽しめるが、このことは大英帝国が海上覇権を握ったという事実と大いに関連している。実際、イギリスが覇権を握っていたとされる19世紀の作品が非常に多く出展されている。交易はさらに発展し、例えば現代の日本では海外のワインをたくさん楽しめるようになった。そのような交易が発展していく軌跡を、ボタニカル・アートから感じることもできるだろう。

「おいしいボタニカル・アート~食を彩る植物のものがたり~」は、新宿のSOMPO美術館で2023年の115日まで開催されている。

 

 

 

2022年11月
篠原魁太

<参考>

「おいしいボタニカル・アート ~食を彩る植物のものがたり~」、展覧会ホームページ

大葉秀章『図説ボタニカルアート』河出書房新社

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