ワインラヴァーの旅紀行~ブルゴーニュ コート・ドール~
- 2024.01.30
- おすすめワイン
ぶどうを育む自然を感じ、醸造するつくり手たちと触れ合い、その土地ならではの食とワインを楽しむ旅。今回は銘醸地 ブルゴーニュのコート・ドールでのワイン体験をレポート。
世界的に大人気のブルゴーニュ、値段高騰の勢いも凄まじい。筆者私の自宅にある20年前のワイン・ハンドブックに記載されているロマネ・コンティの価格は20万円。最近、ロンドンのレストランのワインリストで見かけたロマネ・コンティは500万円だった。これだけ人気が上がった理由の一つに、料理のトレンドの変化がある。フランス料理はもとより、世界はヘルシー指向になり、こってりしたソースを使ったような濃い味付けよりも、素材そのものを生かした料理が好まれるようになった。そのため、80~90年代にもてはやされたいわゆる濃いワインよりも、エレガントでスッキリした飲み口のワインがトレンドになっている。ブルゴーニュのワイン旅では、料理とワインのトレンドに触れていく。
黄金の丘 コート・ドール
原則的には、ブルゴーニュの赤はピノ・ノワール、白はシャルドネから造られる。世界に名を馳せるグラン・クリュのある銘醸地が、黄金の丘という意味のコート・ドールである。この名称は、秋の収穫時期にブドウ木の葉が斜面を黄金色に染めることに由来する。コート・ドールは南北に伸びる産地で、赤の銘醸地である北部のコート・ド・ニュイと、白の銘醸地として名高い南部のコート・ド・ボーヌに分かれている。
1. 赤ワインの銘醸地 コート・ド・ニュイ
コート・ド・ニュイはディジョンからコルゴワンまでの地域。県道974号線からほんの数百メートル小道を入ったところにあるジュブレ・シャンベルタンに立ち寄る。小さな店、事務所、住居らしきものが連なり、閑散としている。この小さな村には、観光的な要素は全くない。しかし、ワイン産地の生活を自分の目で見て、テロワールを感じることは、ワインラヴァーにとってこの上ない喜びである。
私はシャルロパンのジュヴレ・シャンベルタン・プルミエ・クリュ ベレール2015を飲んで以来、ブルゴーニュに魅了された。大ぶりのバルーングラスから、溢れんばかりに香るラズベリーやレッドチェリーのアロマ。芳醇な果実味と、完璧なバランスでほんのり漂う樽由来のスパイシーな甘苦いシナモン。エレガントで高貴。ワインは教会や宗教と関係が深い飲み物だが、それはまさに神の領域だった。
さらに南下すると、ヴォーヌ・ロマネ村に到着。ここには、ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ(DRC)が単独所有するわずか1.8haの畑ロマネ・コンティがある。写真にある十字架が目印だが、現地のドライバーが畑を間違えて、違う畑の写真を撮りまくっていた我々。途中で気づき、十字架を目指す。過去にはこの特級畑を巡って熾烈な争奪戦も繰り広げられた。世界中からこの畑を訪れるワインラヴァ―が後を絶たないが、畑は荘厳な空気に包まれ、まるで一流の職人が無口を貫いているようだ。
2. 白ワインの銘醸地 コート・ド・ボーヌ
ボーヌの人気店Ma Cuisineでいただいたのは、スペシャリテの鳩料理。ワインはムルソーの名手コント・ラフォンのシャルドネから始め、メオ・カミュゼのアロース・コルトンの赤へと。鳩料理はシンプルに塩コショウで味付けがされていて、赤ワインソースが少しだけ添えられている。素材の味をダイレクトに感じる。シンプルな味付け故に、口中では赤ワインがまるでソースのように肉に絡まり見事なハーモニー。付け合わせのマッシュポテトと上質なピノ・ノワールのなめらかなテクスチャーが溶け合う。
ピュリニー・モンラッシェにひたる時間
ジョセフ・ドルーアンのピュリニー・モンラッシェ プルミエ・クリュ クロ・ド・ラ・カレンヌ2016を飲んだ時の衝撃は今も記憶に新しい。新鮮さを保ちながら見事に完熟したアプリコットにアーモンドや甘いバニラの風味が寄り添い、ミネラル感が全体を引き締める。ピュリニー・モンラッシェ独特の特徴であるピンと張り詰めた緊張感。類を見ない、澄んだ美しいワイン。
この敬愛する産地ピュリニー・モンラッシェにどっぷり浸りたく、宿泊は同村にあるドメーヌ・オリビエ・ルフレーヴのホテルにした。ピュリニー・モンラッシェの旗手ドメーヌ・ルフレーヴの故ヴァンサン・ルフレーヴ氏の甥にあたるオリビエ氏のホテルである。ピュリニー・モンラッシェはこじんまりした村で、道ゆく人もまばら。17室しかない田舎の小さなホテルと思いきや、中に入ると、スタッフの皆さんが洗練されて都会的なのに驚く。
ホテルを出てすぐ左隣にあるのが、ブルゴーニュ白ワインの最高峰のひとつと言われる前述のドメーヌ・ルフレーヴ。質素な石造りの佇まいに風格を感じる。
秋の夕暮れ、澄み切った空気の中、ピュリニー・モンラッシェを歩く。広場のカフェでは白ワインのグラスを片手におしゃべりに花を咲かせる人々。途中、エチエンヌ・ソゼのドメーヌを見つけて盛り上がる。
眼前に広がるブドウ畑の手前には、ビアンヴニュ・バタール・モンラッシェの看板。グラン・クリュ畑の入り口である。『三銃士』の著者アレクサンドル・デュマが「ひざまずき、脱帽して飲むべし」と称賛したグラン・クリュ、モンラッシェを左に見ながら進むと、その先の斜面には、鋭い酸味と豊かなミネラル感で長期熟成の能力を持つワインをうむシュバリエ・モンラッシェが広がる。
ディナーはホテル内にあるレストランKLIMAにて。コースの始まりはフィンガーフードでカジュアルに。ワインはもちろんピュリニー・モンラッシェで、プルミエ・クリュ・レ・ピュセルからスタート。ソースはやはり添えられている程度で、ソースがかかっていない料理もあった。ワインの繊細さが際立つ。
奮発してオリビエ・ルフレーヴのモンラッシェ2017を注文。「まだ若いワインなので、エアレーションしますか?」とソムリエのアドバイス。フレッシュな青リンゴ、アーモンド、鉱物的なミネラル感、まだまだ熟成のポテンシャルがある。ブルゴーニュワインといただくフルコースの料理を堪能。
ディナーも終盤の頃、当主のオリビエ・ルフレーヴ氏が登場し、各テーブルを挨拶に回っていた。突然の造り手の登場に緊張してしまう。我々のテーブルにいらした時のオリビエ氏第一声は「何を飲んでいますか」だった。お皿に残っていたメインディッシュの肉料理を見て「レ・ピュセルはちょっと軽すぎるのではないですか」と、問いかけられた。「はい、今モンラッシェをエアレーションしてもらっています」と答えると安心した面持ちで深くうなずいた。料理とワインが、お互いを最高に高め合うようなペアリングを勧めたいという気持ちが伝わってきた。
秋の夜が降りてきて、外は闇に包まれていた。忙しかった収穫の時期が終わり、偉大なワインを生むブドウ畑もこれから冬の休養である。
ライター紹介:近藤美伸(Kondo Minobu)
Dip WSET
J.S.A.認定ソムリエ・エクセレンス、ワインエキスパート
イタリアNative Grape Odyssey マエストロ
International Wine Challenge (IWC) associate judge
Japan Wine Challenge(JWC) 認定ジャッジ
第9回サクラアワード審査員
サーブルドール騎士団叙任
Les Piliers Chablisiens シャブリ騎士団叙任
大学卒業後、航空会社のフライトアテンダントとして国際線ファーストクラスや日本政府の特別フライトを担当。サービスインストラクターとして、外国人CAに接客マナーの指導を行う。世界各国の滞在先で数々のワインや郷土料理に触れ、食文化に深い関心を持つようになる。ECC外語学院英語講師、日本や欧米誌のエディター・ライターの経験を経て、現在は日本のワイナリーの業務に携わっている。
パリとLAに長期滞在した経験と世界中のワインや食体験を元に、ワインセミナーを開催している。ワインを学ぶ事により、自分自身が感じた「世界を旅するような感動」を伝えて行きたいと思っている。2022年に英国WSET®最難関の国際資格WSET Level 4 Diplomaを取得。
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