ワインボキャブラ天国【第118回】「門出のリキュール」 英:dosage 仏:liqueur d’expedition
- 2022.03.13
- ワインボキャブラ天国
連載企画『Firadis ワインボキャブラ天国』は、ワインを表現する言葉をアルファベットのaから順にひとつずつピックアップし、その表現を使用するワインの例などをご紹介していくコーナー。
このコラムを読み続けていれば、あなたのワイン表現は一歩一歩豊かになっていく・・・はずです!
取り上げる語彙の順番はフランス語表記でのアルファベット順、ひとつの言葉を日本語、英語、フランス語で紹介し、簡単に読み方もカタカナで付けておきますね。
英仏語まで必要ないよー、という方も、いつかワイン産地・生産者を訪れた時に役に立つかもしれませんから参考までに!!
ということで今回ご紹介する言葉は・・・
「門出のリキュール」
英:dosage
仏:liqueur d’expedition(リクゥール・デクスペディシオン)/ liqueur de dosage(リクゥール・ド・ドザージュ)
『門出のリキュール』とは
今回のテーマは『門出のリキュール』。
このコラムシリーズ第102回『ドザージュ』の項(*後ほどこちらのページのリンクも貼っておきます)でもご紹介しました通り、シャンパーニュをはじめとした「瓶内で二次発酵を行い、その過程で発生した炭酸ガスを瓶内に閉じ込めるという醸造法=シャンパーニュ製法/トラディショネル製法」において、出来上がったワインの最終的な味わいバランスを取るために加える甘味リキュールのことです。
シャンパーニュの製造工程として一番最後、出荷の目前に添加されるリキュールなので『門出のリキュール』と呼ばれています。場合によってはリキュール添加・打栓後もセラーにて更なる瓶熟成を実施するケースもありますが、基本的には出荷直前の最後の製造工程と捉えて戴いて大丈夫です。
リキュールを添加する目的ですが、酵母粕を取り除く作業=「デゴルジュマン」を実施した際に目減りをしてしまったワインを補充すること、そして前述のようにスパークリングワインの糖度の調節をすることです。このリキュールの添加量によってスパークリングワインの甘さ、辛さのスタイルが決まります。『ドザージュ』のページでも掲載済ですが、念のため再度こちらにも一覧を載せておきますね。
そのリキュール、何でできているの?
リキュール添加直前、シャンパーニュのボトルの状態は上の画像のような状態。ここでは分かりやすくロゼ・シャンパーニュの酵母粕の画像をご用意してみました。
「デゴルジュマン」の工程では、この瓶口付近に溜まっている酵母粕を凍結させ、個体の状態で噴出させます。そこに素早く甘味リキュールを必要量注入し、出荷用のコルクを打栓、「ミュズレ」と呼ばれる金具でコルクを固定します。
その際に添加する「門出のリキュール」、実は各生産者毎に原料やレシピが異なります。主にショ糖(サトウキビ原料の糖)、甜菜糖(サトウダイコンを原料にした糖/ビーツ糖)、MCR(Moût de raisins Concentré Rectifié)と呼ばれるブドウの濃縮果汁を原料にしたリキュールが主流です。
このうち甜菜(サトウダイコン)は、実はシャンパーニュ地方でも広く栽培されており、ブドウや小麦に並んでこの地域を代表する農産物。地元産の甜菜糖原料リキュールにこだわるシャンパーニュ生産者も多いようですよ。
これらの原料糖にはそれぞれに味わいの特徴もあります。
ショ糖はやはり甘みとコクが強く、これを使ったシャンパーニュはドザージュの添加が特に目立つ感じだな、と僕は思っています。甜菜糖はツンとしたところが無く優しくサラッとしていて穏やかな甘み、MCRはやはり果実原料なのでフルーティでまろやかな甘みが感じられます。その他、自分の蔵でかつて仕込んだ古いヴィンテージのリザーヴワインをリキュール代わりに使用する生産者も存在します。
ドザージュの原料やレシピは生産者でも秘密にすることが多く我々も把握できていないことが多いのですが、シャンパーニュの飲み口・味わいスタイルなどから推察してみるのも面白いかもしれませんね。
近年は職人的なレコルタン・マニピュランをはじめ大手有名メゾンも糖分添加量の非常に少ない「Brut nature/Dosage Zero」を積極的アピールすることが多くシャンパーニュ界のトレンドになっていますが、一部の生産者は根強く「極甘口」も作り続けています。
Deux=「1Lあたり糖50g」というと極端に多く感じられますが、青果のブドウ100gあたりの糖質含有量は実はなんと約15gですし、炭酸飲料での中でも特に糖分含有量の多い「ファンタグレープ」は、ペットボトル1本で57.5gもの砂糖を含んでいるそうです!1L中50gをどう捉えるかは、飲み手の舌次第ですね。
もっとも、シャンパーニュ創世期の甘さは、こんなものではなかったようです。特にロシアの宮廷などではなんと150g/L!!という超甘口が好まれていたようです。ロシア宮廷で愛されていた『ルイ・ロデレール クリスタル』もこんなに甘かったのでしょうか。一体どんな味わいなのやら・・・???
それでは今回はこのへんにしておきましょう。今日も、あなたの表現するワインの世界が少し広がりました!
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シャンパーニュの分類を識ることは、基本中の基本。
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