ワインボキャブラ天国【第125回】「天使の分け前」 英: angels’ share 仏: part des anges
- 2022.05.01
- ワインボキャブラ天国
連載企画『Firadis ワインボキャブラ天国』は、ワインを表現する言葉をアルファベットのaから順にひとつずつピックアップし、その表現を使用するワインの例などをご紹介していくコーナー。
このコラムを読み続けていれば、あなたのワイン表現は一歩一歩豊かになっていく・・・はずです!
取り上げる語彙の順番はフランス語表記でのアルファベット順、ひとつの言葉を日本語、英語、フランス語で紹介し、簡単に読み方もカタカナで付けておきますね。
英仏語まで必要ないよー、という方も、いつかワイン産地・生産者を訪れた時に役に立つかもしれませんから参考までに!!
ということで今回ご紹介する言葉は・・・
「天使の分け前」
英: angels’ share 仏: part des anges(発音は「パール・デ・ザンジュ」)
『天使のわけまえ』とは?
今回取り上げるワイン用語・・・ではないですね。ウイスキーやブランデー、その他蒸留酒を含め「熟成をさせるお酒」全般に対して使われる言葉。そして、なかなかロマンティックで素敵な言葉ですよね。
『天使の分け前(取り分、ということもあります)』についてご紹介しましょう。
これは、オーク製の木樽などでワイン(その他のお酒)を貯蔵・熟成させる際に、水分やアルコール分が蒸発することで液量が目減りする分を表現した言葉です。静かで暗いカーヴの中で、人々の知らないうちに天使がやってきて少しだけお酒を飲んでいったために量が減ったのだ…というちょっとこじゃれた表現ですね。
天使に分けて減ってしまった分は、どうするの?
ワインやウイスキーの熟成は数年~十数年の長きにわたって行われることもあります。木製の樽は完全密閉では無く、液体はほぼ通しませんが気体の出入りは自由なため、長い熟成の間には水分・アルコール分は蒸発/揮発して空気中に出ていきます。
これによって樽内の液量が減った分=『天使の取り分』に対して、特にワインの場合は樽の中の空寸部分に残った酸素との接触で過度の酸化が進むとワインの品質が劣化してしまいます。このため、目減りした部分には別途用意してあった同じ年の同じワインを入れて補う『補酒=Ouillage(ウイヤージュ)』という作業を実施します。長期的な熟成をさせる場合には、この作業を繰り返し行っていくため、リリースできるワインの量は仕込んだ時点よりも減ることとなります。
また、一部の産地では、この『天使の分け前』に対する補酒を行わないことで、敢えて酸化のニュアンスをワインに与えてそれをフレーヴァーとする場合もあります。ジュラ地方のワインなどはその一例ですね。
単に「蒸発して無くなってしまった分」と考えるよりも、天使の庇護を受けつつ無事に長い間の熟成が重ねられたのだ…と考えるほうがワインもよりおいしく感じられそう。やはり、もともとは神様への捧げもののお酒だったワインでは尚更そういう考え方が適していますよね。
それでは今回はこのへんにしておきましょう。今日も、あなたの表現するワインの世界が少し広がりました!
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