ワインボキャブラ天国【第138回】「ピュピトル」 英:riddling rack 仏:pupitre
- 2022.08.14
- ワインボキャブラ天国
連載企画『Firadis ワインボキャブラ天国』は、ワインを表現する言葉をアルファベットのaから順にひとつずつピックアップし、その表現を使用するワインの例などをご紹介していくコーナー。
このコラムを読み続けていれば、あなたのワイン表現は一歩一歩豊かになっていく・・・はずです!
取り上げる語彙の順番はフランス語表記でのアルファベット順、ひとつの言葉を日本語、英語、フランス語で紹介し、簡単に読み方もカタカナで付けておきますね。
英仏語まで必要ないよー、という方も、いつかワイン産地・生産者を訪れた時に役に立つかもしれませんから参考までに!!
ということで今回ご紹介する言葉は・・・
「ピュピトル」
英:riddling rack
仏:pupitre (de remuage / 男性名詞 発音は「ピュピトル」)
目次
『ピュピトル』とは?
今回取り上げる言葉は『ピュピトル』。シャンパーニュ、又は「瓶内二次発酵」の製法を採用しているスパークリングワインの製造工程において伝統的に使用されてきた木製のボトルラックのことです。上の画像はフィラディスワインクラブでも人気のシャンパーニュ生産者『エティエンヌ・ルフェーヴル』から提供いただいたもの。古くから続くシャンパーニュの蔵元では、このように醸造所の地下カーヴに沢山の『ピュピトル』が並べられており、これがある意味名物的な風景になっています。
さて、今回は製造工程においてこの『ピュピトル』をどのようにして使用するのか、使用する目的は何なのか、についてご紹介をしていきたいと思います。
その前に、もし「シャンパーニュって何?」とか「瓶内二次発酵ってどんな発酵なの?」と疑問に思われた方がいらっしゃいましたら、その方は是非こちらのコラムを先に。ワインの造り方について、初心者の方にも分かり易いよう簡単に解説をしたコラムになっていますよ。
『ピュピトル』をどのようにして使用するのか?
まずは『ピュピトル』そのものの画像を見て戴きましょう。
このように、穴がぼこぼこと開いた板2枚を斜めに繋いだだけの木製ラックです。この穴にシャンパーニュやスパークリングワイン(*以下は長いので「シャンパーニュ」だけで両方を含んでいると思ってください)のボトルを斜めに挿してあるのが冒頭画像の状態ですね。
そこから、この道具を使った『動瓶=ルミュアージュ(ルミアージュ、と書いてある場合もありますが発音上は「ルミュアージュ」です)』という作業が始まります。
シャンパーニュは、 ブドウ果汁をアルコール発酵(一次発酵)させて出来たワインを瓶詰めし、そこに糖分と酵母を再添加して瓶の中でもういちど発酵(二次発酵)させることで炭酸ガスを発生させ、そのガスを瓶内に閉じ込めています。そのため瓶内二次発酵の活動を終えた後には酵母の残りかすを冷却液に漬けて固め、取り除く作業『デゴルジュマン』を実施します。
つまり、その澱をまとめて取り除きやすくするために瓶口の方に落として沈殿させることが必要となります。そのためにボトルを『ピュピトル』に挿し、瓶口に澱が溜まるようにしていくわけです。この作業を実施する職人を「動瓶士」と呼び、
具体的な作業ですが、まずは瓶底の1か所にチョークで印を付け、そこを起点に45度~90度ずつボトルを回し、最初は水平に挿し込まれたボトルを回転ごとに垂直に近づけるよう角度を上にしていきます。角度上げるのは澱を下に落とすため、回転はボトル側面のあちこちに溜まっている澱をまんべんなく下に落としていくためのものです。
ボトルは平均1か月半という長い時間をかけ、1本あたり25回ほどの回転&角度上げの作業が実施されます。熟練した動瓶士の作業は本当に早く正確で、1つのピュピトルに挿し込まれたボトルが次々に回されていく作業風景は本当に圧巻です。
Youtubeで『ルミュアージュ』作業動画をする動画を見つけました。是非一度見てみてください!
↓↓↓
https://www.youtube.com/watch?v=yfxA3pxkijA
そして、下の画像が瓶口に溜まった澱を冷凍液で凍結させたもの。これを取り除くことで、透き通ったシャンパーニュが完成します。
でも・・・最近はほとんど機械がやってくれているんです。
とはいえ、この作業を今も人力で実施しているシャンパーニュ生産者はごく一部の小規模生産者のみ。大手メゾンは勿論、家族経営のレコルタン・マニピュランでも機械化が進んでいます。
それが上の写真の『ジャイロパレット』。時間単位で自動的に角度と回転を加え、24時間稼働で同便作業を実施してくれます。
これによって、人力だと職人の1日8時間の作業で1ヶ月半を要していたルミュアージュ作業は、3分の1の半月ほどで終わるようになりました。
「澱を落とす」という作業内容に関して、職人の手作業と機械作業で品質に大きな差が発生することは基本的にはありません。ですが、職人が1本1本じっくり、1ヶ月半もの時間をかけて丹精込めて澱を落としている…と聞くと、それだけでついおいしく感じてしまうかもしれないですね 笑
それでは今回はこのへんにしておきましょう。今日も、あなたの表現するワインの世界が少し広がりました!
【今回紹介の用語「ピュピトル」に関連したその他のコラム】
ワインボキャブラ天国【第109回】「二次発酵 前編」 英:second fermentation 仏:fermentation secondaire
ワインボキャブラ天国【第110回】「二次発酵 後編」 英:second fermentation 仏:fermentation secondaire
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