ワインボキャブラ天国【第133回】「霜よけストーブ」 英:stove 仏:anti-gelee
- 2022.07.03
- ワインボキャブラ天国
連載企画『Firadis ワインボキャブラ天国』は、ワインを表現する言葉をアルファベットのaから順にひとつずつピックアップし、その表現を使用するワインの例などをご紹介していくコーナー。
このコラムを読み続けていれば、あなたのワイン表現は一歩一歩豊かになっていく・・・はずです!
取り上げる語彙の順番はフランス語表記でのアルファベット順、ひとつの言葉を日本語、英語、フランス語で紹介し、簡単に読み方もカタカナで付けておきますね。
英仏語まで必要ないよー、という方も、いつかワイン産地・生産者を訪れた時に役に立つかもしれませんから参考までに!!
ということで今回ご紹介する言葉は・・・
「霜よけストーブ」
英:stove 仏:anti-gelee (gelee2番目のeに右上がりアクセント 発音は「アンタイ・ジェレ」)
『霜よけストーブ』とは??
「霜よけストーブ」はその名の通り、霜の害を防ぐために使用されるストーブです。
例えばこのページ一番上の画像のようなストーブを畑に一定間隔で並べ、ブドウの樹を温めるわけです。
春の時期に発生する霜は「遅霜」と呼ばれていまして、ブドウが芽吹き蔓を伸ばし始める時期(3月末~4月頃)に気温が氷点下まで下がり、芽吹いたばかりの若芽が凍って壊死してしまう程の深刻な害をもたらします。より具体的には、夜中の間に凍ってしまった芽の組織が朝日による温度の急上昇で溶けることで死んでしまうのだそうです。
よって「霜よけストーブ」は夜の間、芽が凍ることそして急激な温度変化に晒されることを防ぐために使用されます。
では、上の写真のように冬にブドウ樹が雪に埋もれてしまうのは大丈夫なの?と思いますよね。実はそれは大丈夫なのです。冬の期間中ブドウ樹は樹液を根の部分に下して冬眠状態にありますので、地上に出ている部分は凍るような寒さでも問題無し。しっかりと冬を越すことが出来ます。
『霜よけストーブ』あれこれ
「遅霜」の害は、何も冬に冷え込みの激しい北のワイン産地に限ったことではありません。
例えばフランス ボルドー地方のようなかなり南にある産地でも霜害が発生したことがあります。
また、場合によってはもはや「夏」と言える時期になっても発生することがあるから非常に厄介です。
さて、この「霜よけストーブ」にも色々なものがあります。冒頭に掲載したきちんとしたストーブ状のものもあれば、上の写真のように金属製のバケツで火を焚くことも。
また、ブルゴーニュ地方では伝統的に山積みの藁に一気に火をつけて燃やす、という方法が行われていますね。
そして、最も簡易的なものでは蠟燭を紙で囲い火を焚く場合もあります。何ヘクタールもある畑に一体何本も蝋燭を立てるのか、、、多大な労力の割にやはり効果は低いようですが。
今年(2022年)の冬、日本のニュース番組でもフランスのブドウ畑で霜よけのために火が焚かれている、という報道を目にしました。広い畑に一定間隔で灯された日が夜を照らす風景は確かに美しく「フランスの冬の風物詩」のように紹介されていましたが、生産者たちの心の中は「風物詩」なんていう季節のお祭りのようなものでは無く、ブドウの若芽を守るためにとにかく必死。
このコラムサイト掲載の別シリーズ「ワイン職人に聞く、10の質問」では毎回「ワイン造りにおいてあなたが一番辛い(辛かった、大変な)ときはいつでしたか?」という質問を投げかけていますが、多くの生産者が春の遅霜で若芽がダメになってしまった時のことを挙げています。
人間では太刀打ちできない自然の災害、ましてブドウの芽吹きという1年の出鼻を挫いてしまう訳ですから、辛さも半端なものではありませんよね…。我々輸入業者も、春先に生産者から「今年は遅霜でダメになってしまった」という報告を聞くと本当に悲しい気持ちになります。
生産者が霜害に苦しむことが無いよう、ワイン好きの皆さんも春の時期は一緒に祈りましょう!
それでは今回はこのへんにしておきましょう。今日も、あなたの表現するワインの世界が少し広がりました!
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